河瀬直美×深田晃司対談 映画祭の未来に向けて。[前編]
今年の5月12日~23日に開催予定だった第73回カンヌ国際映画祭は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、事実上中止となった。長い歴史の中でカンヌがキャンセルされたのは、戦争によって中止となった1939年のみ。ジャン=リュック・ゴダールらの占拠によって中止に追い込まれた68年を除いて、常にアート映画の殿堂として映画界を牽引してきたため、苦渋の決断だったといえる。世界の映画祭の最高峰としての自負から、カンヌは6月3日に記者会見を開き、上映されるはずだったオフィシャルセレクション56本を発表した。選出された作品は「Cannes2020」レーベルとして、公開時のプロモーションにロゴを使用することが可能だ。 56本中、これまでカンヌ国際映画祭で上映されたことのある監督のカテゴリー「The Faithful」に日本から選出されたのは、『朝が来る』の河瀬直美監督と『本気のしるし』の深田晃司監督。幻となったカンヌ国際映画祭と、今後の映画界や映画祭の未来について、ふたりに話を聞いた。 河瀬直美×深田晃司対談 映画祭の未来に向けて。[後編]
カンヌ映画祭、リアルで開かれぬ2020年。
――通常カンヌは、4月下旬にラインナップを発表しますが、「Cannes2020」に選出されるまでにはどういった経緯があったのですか? 河瀬直美(以下、河瀬) 今回は新作の『朝が来る』が完成していたので、2月頃から映画祭側とやり取りしていたのですが、その時は開催されるものと思っていて。春になって危ぶまれ始めた時から、「Cannes2020」レーベルの話が出ました。世界の監督の中には、ヴェネツィアなど秋以降の映画祭にシフトする人もいたと思いますが、私はやはりカンヌに残したいな、と思っていました。 深田晃司(以下、深田) 作家性の強い作品やアート作品を後押しするというカンヌの姿勢が、今回の56本のセレクション発表に繋がったのだと思います。私の作品『本気のしるし』についていえば、選ばれたことで公開に向けて大きな力をもらっています。