【陸上】東京五輪女子5000m代表、田中希実が抱えていた選考会までの葛藤
日本選手権・長距離(12月4日)女子5000mに15分05秒65で優勝した田中希実(豊田自動織機TC)。狙いどおりに東京五輪代表内定を決めたが、レースに向けての練習では不安にさいなまれ続けていたという。 写真=廣中(左)、萩谷(右)らとともに女子長距離界の時代を変えていくことを実感する田中。互いに切磋琢磨しながらさらなる高みを目指していく 写真/毛受亮介(陸上競技マガジン) 今季の結果だけを追えば、順調に見えるのかもしれない。田中が7月に3000m、8月に1500mで日本新記録を樹立したときには、高いレベルの練習メニューを完璧にこなせていた。だが日本選手権・長距離は苦手な冬期での開催ということもあり、予定どおりにメニューをこなせなかった。 メニューを何回も変更した経緯やレース前の不安な心境を、父親でもある田中健智コーチも同席した場で田中が正直に語ってくれた。
2人の葛藤がぶつかり合って生まれたレース展開
――大会1カ月前の新潟での大会は不安を抱えて走っていました。この1カ月間、その不安をどうコントロールできたのですか。 田中 コントロールできない自分が多かったと思います。1回1回の練習で一喜一憂していました。今日は少し良くできた、でも、次はできない。できた練習も、まあまあできたかな、くらい。気持ちの浮き沈みを繰り返していました。 ――スタートラインに立ったときは、絶対に勝てると思えなかった? 田中 ワクワク感や闘争心はなかったです。スタート前に負けていた精神状態でした。 ――その状態で、勝機をどう見出したのですか。 田中 廣中さん(璃梨佳・JP日本郵政グループ)のハイペースを予想していましたが、思ったよりスローペースになったことで気持ちに余裕が生まれて、レース展開を考えながら走るゆとりが生まれました。 ――もう少し速くなることを想定した練習をしてきていたのですか。 田中 その点を意識した練習ばかりしてきたのですが、半信半疑で確信を持てませんでした。そういう練習が続いていたので不安でした。 ――ラスト2000mは5分50秒を切っています。昨年のドーハ世界選手権から目安としてきたタイムで上がったことは収穫では? 田中 はい。そこまでラストを上げられるとは思っていませんでしたので、その点は大きな収穫でした。逆に廣中さんがそのくらいのペースで前半2000mを入るんじゃないかと身構えていましたので、展開次第で(勝敗も)どうなっていたか分かりません。廣中さんも葛藤があってのことだったと思うんです。2人の葛藤がぶつかり合った結果、あのレースになったんだと思っています。 ――そのなかで学んだことは? 田中 ずっと1人で練習してきて、タイムとにらめっこをするように走ってきましたが、日本選手権では久しぶりに1周1周のタイムとか、今は何周目とか考えずに走ることができました。そういった気持ちを大事にしていかないといけないんだな、と思いました。