わかってる人少ない…「富士山の環境破壊」の超重要論点、山梨県の解決案は何がダメ?
近年、リニア中央新幹線や神宮外苑の再開発など、民間プロジェクトが「環境」をめぐり行政や環境団体、住民運動と衝突する事例が増えている。地球環境や住環境、自然は重要な価値を持つが、開発を行う以上、何らかの形で自然にダメージを与えることは避けられない。開発を行う企業・組織も、経済合理性を重視しつつ地球環境にも配慮しているはずだ。こうした経済発展と環境保全という相反する問題をどう解決するべきか。今回はその一例を考えてみたい。 【詳細な図や写真】山梨県の長崎幸太郎知事が打ち出していた「富士山登山鉄道構想」は、地元からの大反発を受け、断念に追い込まれた。何が問題だったのか?(Photo:Vitalii Karas/Shutterstock.com)
環境問題で衝突する「山梨県」と「住民」
山梨県の長崎幸太郎知事が大きく打ち出していた「富士山登山鉄道構想」は、地元からの大反発を受け、断念に追い込まれた。富士山登山鉄道構想とは、観光客の増加による混雑・渋滞の解消を目的に、富士山の山麓から5合目までの区域に鉄道や新しい交通システムの導入を目指すという計画だ。 実は、山梨県の関係者から「この構想には無理があるのではないか」という情報提供を受け、筆者は実際に試算を行い、県庁や地元・富士吉田市に何度も取材に足を運んでいた。しかし、この山梨県の方針転換により、その取材が完全に無駄になってしまったのだ。 愚痴を述べたいわけではないが、新たに打ち出された「山梨県の新構想」にも共通する問題として、山梨県側の富士山の問題に対するアプローチは、「オーバーツーリズム(観光客過多)を抑制するため」だと言いながら、「観光業を発展させたい」という矛盾に満ちたものである点に変わりはない。 まず、撤回された「富士山登山鉄道構想」に触れておきたい。この構想に関する山梨県の資料では、朝8時から夜18時まで、東京の山手線のように6分間隔で運行し、2両編成、運賃は片道1万円、車両がほとんど常に満席になると年間利用者が300万人に達し、40年で黒字化するという内容だった。しかし、黒字化が現実的に不可能であることは明らかだ。さらに、線路工事で排出されるCO2を回収するには同じく40年が必要という試算もあり、経済的にも環境的にも優れた計画とは言えなかった。 このような荒唐無稽な計画が撤回されるまで、山梨県や長崎知事は自信満々に構想を語っていた。その姿勢に対して、富士山のあり方が損なわれるのではないかと懸念を抱く声もあった。結果として撤回は妥当だったが、その後に登場した代案が、レール(鉄軌道)不要のゴムタイヤ式新交通システム「富士トラム(仮称)」の活用である。 山梨県が発表したイメージ図(上の動画)では3両編成の鉄道風の乗り物が描かれているが、この通りに実現する保証はない。急勾配や急カーブ、冬季の吹雪や雪崩のリスクが頻出するスバルラインで、このような乗り物がスムーズに運行できるかについて、技術的に難しいとの声が関係者から上がっている。実際には1~2両編成のただの観光バスが走る可能性が高い。