【山吹(ヤマブキ)】江戸城をたてた太田道灌の運命の花。歴史に名を残すきっかけは、農家の娘が渡した1本の切り枝だった
日本の草花を四季に応じて紹介する『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(著:田中修 絵:朝生ゆりこ 中央公論新社刊)から、いまの季節を彩る身近な植物を取り上げ、楽しく解説します。今回のテーマは「【山吹】」です。 【写真】あざやかな黄金色、まるでバラみたい!八重咲きのヤマブキ * * * * * * * ◆英語名は、「ジャパニーズ・ローズ」 いくつかの植物が、「日本のバラ」を意味する英語名で、「ジャパニーズ・ローズ」とよばれます。この名称は、ツバキ、ノイバラ、ハマナスに使われるのですが、5月ごろに花を咲かせるヤマブキも、この名前でよばれることがあります。 春に、この植物には、あざやかな黄金色の花が咲きます。この花がバラのような印象をもたらすのです。 この植物の学名は、「ケリア ヤポニカ」です。「ケリア」という属名は、スコットランドの植物学者ウイリアム・ケリの名前に由来し、「ヤポニカ」は、日本生まれを意味しています。
◆太田道灌は蓑を貸してと頼んだはずが この植物では、江戸城を建てた太田道灌(おおたどうかん)が勉学に励むきっかけになったという、次のような逸話が語り継がれています。 室町時代、武将であった太田道灌が、鷹狩りの下調べのため山に入りました。季節は、春でした。ところが、山道でひどい雨が突然に降り出してきました。彼は、山道沿いにぽつんとあったひなびた農家の軒に身を寄せて、雨が止むのを待ちました。しかし、雨はいっこうにおさまる様子はありません。そこで、家の中に人の気配がしていたので、彼は声をかけました。 戸が開き、一人の娘が静かに姿を現しました。道灌は事情を説明し、「雨よけに、蓑(みの)を貸してもらえないか」と頼みました。蓑は、雨をよけるために身に着けるものであり、現在なら、「傘かレインコートを貸してほしい」と頼んだことになります。 応対して話を聞き終わった娘は、黙って一礼をして、家の奥に姿を消しました。道灌は、蓑を貸してもらえるものと思いました。ところが、しばらくして、再び現れた娘の手には、蓑ではなく、一本の切り枝が握られていました。 枝には、あざやかな八重(やえ)のヤマブキの花が咲いていました。娘は、道灌に丁寧に一礼をして、黙ってヤマブキの枝を差し出しました。道灌には、意味がわかりませんでした。「なぜ、蓑を借りたいと頼んだのに、ヤマブキの花の枝なのか」と合点がいきませんでした。