豚コレラに揺れる愛知の養豚業 「現場に行っていませんよね」 見えない脅威に「ピリピリ」
「感染したら全頭処分。業者の間ではピリピリですよ」──。 2月6日、愛知県豊田市の養豚場で飼育されていたブタが、ウイルス性の家畜伝染病の豚(とん)コレラに感染していることが確認され、ブタの出荷先を含めて影響が5府県に広がった。起点となった愛知県内のほかの養豚場では、現状をどう受け止めて、どう対策をしているのか。 移動・搬出制限区域外で取材に応じたある養豚関係者が、厳戒態勢の中、ウイルス感染を防ぐ対策の現状や、問題の受け止め、感染への恐れなど、現在進行形の豚コレラ問題について、複雑な胸の内を明かしてくれた。
「どこだ?」
愛知県内でブランド豚を含む約2500頭の豚を飼育する養豚場の場長の男性(41)は5日、養豚業の全国組織からファクスで届いた「豚コレラ発生の疑い」の知らせを見たとき、真っ先に発生地域のいくつかの同業者のことが頭に浮かび、「どこだろう?」と思いを巡らせた。しばらくすると各メディアが報じるようになり、男性もスマートフォンで、関連情報の収集を始めた。 養豚の関係者たちは、生産技術の向上を目指し、それぞれでグループを作って情報交換をしている。男性も県内の同業者を中心につくるグループに所属し、無料通信アプリなどを使ってさまざまな情報を共有していた。5日以降、感染が確認された養豚場に関する情報が流れてきて、メンバーの獣医師たちが感染を防ぐ対策を呼びかけたりした。グループ内で交わされる情報は、8日ごろまで、豚コレラ一色となったが、中には、発生しなかった地域の養豚関係者から「過剰反応では」と、仲間に冷静な対応を呼びかけるメッセージも届いた。 男性は、一報に触れたとき、発生の衝撃よりも、「どこで豚コレラが出たのか」「なんとしても感染を防がなくてはならない」と、場長として豚を守るための対策の確認に奔走した。
消毒用の消石灰に一工夫も
愛知県豊田市での豚コレラの感染が確認された6日、県内は雨が降った。消毒用の消石灰は、雨で流れてしまうことから、男性は雨が上がった7日にかけて、養豚場の入り口から場内に、いつも以上に入念に消石灰をまいた。 男性の養豚場では普段、水に消石灰を溶かして敷地にまいているが、問題の発生を受けて、消石灰が簡単に剥がれないように「粘着剤も使った」という。これは、豚舎内部の対策に使う方法だが、今回は屋外でも試した。さらに、水に溶かす消石灰の量も従来の2割ほど増やし、濃度を上げた。男性が提供した屋外の写真からは、指でなぞっても消石灰がはがれない様子がわかる。 こうした感染を防ぐ対策は、今に始まったことではない。ウイルスによる豚流行性下痢(PED)が県内で発生した2014年以降、地道に続けてきた。消石灰も、定期的に購入して散布し、防鳥ネットを取り付けるなど、鳥やネズミを豚舎へ入れないようにしてきた。気をつけたのは動物だけではない。場内に出入りする車両や人物も記録し、どうしても立ち入りが必要な業者には、消毒などを徹底させてきた。