コロナ収束の切り札だが......どうしても心配になる「ワクチン差別」の危険性
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、新型コロナウイルスの「ワクチン差別」の危険性について語る。 (この記事は、2月1日発売の『週刊プレイボーイ7号』に掲載されたものです) * * * コロナとの戦いでカギとなるワクチン。日本でも厚労省がまずは高齢者向けに3月中旬以降、「接種券」を配布すると公表した。私も接種が順調に進むことを期待しているが、ここにきて新たな不安材料が出てきた。 英国や南アフリカが起源とされる変異ウイルスが世界的に拡大し始めたことだ。ファイザー社とモデルナ社ともにふたつの変異ウイルスにも有効性は失われないと公表したことで、胸をなで下ろしたいのだが、そう単純ではない。 なぜなら、南ア株に対しては有効性が落ちることもわかったからだ。今後もウイルスの変異は進む。近い将来、現在のワクチンが効かないウイルスが生まれるのはほぼ確実だ。そうなると、元のもくあみになる。 さらに困るのは、そうした事態が予想されるとなれば、ワクチン接種は無駄だと考えて接種を受けない人が増えることだろう。その結果、集団免疫ができるのに時間を要することになり、その間にウイルスの変異が進むという悪循環になりかねない。その場合、かなりの長期間、接種済みの人と未接種の人が混在することになる。 こうした事態は複雑な問題を引き起こす。ワクチンの未接種者に対する差別の問題だ。ワクチン接種は義務ではない。個人の自由だ。アレルギーなどにより接種できない人や、もともと接種をしたくない人もいる。 しかし、企業経営者はすべての従業員に接種させたいと考える。経営上は合理的な判断だ。今、アメリカではさまざまな特典(レストランの朝食券、テレビが当たる抽選券など)を提供して労働者に接種を勧める企業が増えている。自治体の消防署が署員にタクシー配車の無料券を配るという例まであるそうだ。 しかし、この動きは要注意だ。この先には、ワクチン接種が雇用の前提とされたり、劇場や美術館、さらにはホテルなどの入場の条件とされたりする事態も予想される。そうなれば、ワクチン接種は事実上の義務と化す。