組織の判断ミスはなぜ起こるのか?「属人思考」のはびこる組織が危ない理由
会議で慎重に決めたはずなのに判断を誤ってしまい、それが組織にとって致命的なものになることがある。なぜ慎重に判断したはずなのに誤ってしまうのか。そのようなケースで問題となるのが属人思考だ。組織としての判断ミスをなくすには、この属人思考について知っておく必要がある。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明) 【この記事の画像を見る】 ● 風通しが悪く、意見を自由に言えない組織風土 企業や役所などの不祥事が発覚するたびに、世間から疑問視されるのが、「なぜそのようなおかしなプロセスがまかり通ってきたのか」ということである。だれかが勝手におかしなことをやったわけではなく、ちゃんとした手続きを経て、組織としての意思決定を慎重に行ったはずなのに、後になっておかしな判断だったということになる。 おかしな判断によって組織は大きな損害を被ることになったりするのだが、なぜそのようなことが起こるのか。そこで問われるのが組織風土だ。 だれもがおかしい、あるいは危ないと感じる案件が全会一致で通っていたということが、不祥事をはじめ重大な判断ミスが明るみに出た際にしばしば報道されるが、それは決して特殊な会議のあり方ではない。 ちょっと危うい感じがしても、提案者に疑問をぶつけたり反対意見を表明したりするのも気まずいし、ここは提案者に任せるしかない、といった気持ちで黙っていると、「特に異議がないようですので、全会一致で承認ということにしたいと思います」という議長の声が響き、内心釈然としないまま次の議題に移る。これは、どの組織でもよく見かける光景だろう。 自由に意見を言えないような組織風土がある職場を風通しの悪い職場と言ったりするが、自分にとって影響力のある人物の意向を気にかける日本人の組織では、決して珍しいことではないのだ。
この風通しの悪さのせいで、せっかく会議で議論しても、きちんとした議論が行われず、おかしな結論に至ってしまう。それを防ぐために、多くの組織で改革が行われているが、たいていは組織の構造や制度をいじるばかりで、風土を変えるまでには至らない。 組織風土というのは、メンバーの思考や行動に無意識のうちに影響を与えているものだ。その中でどう動くか、制度をどう生かし規則をどう適用するか、会議をどう運営するかなどは、すべて組織風土次第といえる。 だからこそ、今、求められるのが組織風土の変革である。 ● 属人思考が組織の意思決定をゆがめてしまう 組織風土が不祥事を生み出す温床になっていると言われても、自分たちの組織風土に問題があるのかわからない、という人もいるはずだ。判断の誤りで思いがけない痛手を負った組織の人たちも、判断した時点では、自分たちの組織風土に問題があることに気づいていないことが少なくない。 そこでチェックすべきは属人思考の有無である。 属人思考とは、「事柄」よりも「人」を重視する思考を指す。つまり、会議などで何かを議論し判断する際には、その議題となっている事柄自体をじっくり検討すべきなのに、提案者など人物の要因を重視する心理傾向のことである。 たとえば、財務の健全性について検討したり、新規案件の収益見通しやリスクについて審議したりする際に、本来はその事案そのものについて検討したり議論したりすべきだろう。だが、だれが責任者か、だれの提案か、だれの実績になるか、上司はどうしたいのかなど、人間関係に大きく左右されてしまうのが属人思考である。 属人思考に関しては、心理学者の岡本浩一氏が精力的に研究を進めているが、組織的違反の主要な原因は、規定等の整備不良などではなく属人思考であることが明らかになっている。コンプライアンス重視などといって規定等をいくら整備したところで、その運用面に属人思考が無意識のうちに入り込むのだ。 事案の評価に人間関係的な要素が入り込んでしまう。その結果、組織にとってリスクの大きい事案が可決されたり、見過ごすべきでない事柄が黙認されたり、組織にとって大きなチャンスとなり得る事案がつぶされたりするといったことが起こってしまう。 「あの人には逆らわない方が得策だ」 「あの人の機嫌を損ねたら大変なことになる」 そうしたささやきが聞こえるようだと、属人思考が深く浸透したかなり病んだ組織と言わざるを得ない。人間関係が重視される日本社会では、だれもが人の気持ちを傷つけたり人の期待を裏切ったりするのを避けようとするものである。その意味では、どんな組織にも属人思考はつきものといえるが、それが行き過ぎると、重大な判断の誤りをしてしまうことになりかねない。 そこで必要なのは、コンプライアンス順守などといって規定を整備することではなく、属人風土を改善することである。