消息不明のロシア兵急増 「家族は拷問のようなものだ」――「母の会」の困惑と願い
キーウ近郊の町ブチャの虐殺や、戦場での略奪などを犯したロシア兵に弁護の余地がないことは言うまでもない。一方、意に反して戦場へ送られ、恐怖の中で死に、路上に屍をさらしたままになっている兵士たちがいることも確かだ。 4月3日の記事「前線へ送られるロシア兵士の現実」では、徴集兵の実態と、それでも立ち上がることを期待できないロシア社会の閉塞状態について「兵士の母の会」のワレンチナ・メリニコワ会長のインタビューを紹介した。 いま、メリニコワ会長は、ウクライナ侵攻が始まってから日を追うごとに増える戦死者の数と、消息不明者の数の多さに困惑しているという。 今回、メリニコワ会長はロシアのウェブチャンネル Vsya takaya Mongayt (5月7日)と西側のメディアThe Insider( 5月6日)のインタビューに応じ、それぞれ「消息不明兵」の現状、そして「ロシアで戦場に送られるのを回避するにはどうしたらいいのか」という問いに答えている。
「ロシア軍にこんなに多くの戦死者が出たことはない」
メリニコワ会長によれば、現在もっとも困難なのは、戦死したか捕虜になったかわからない、消息不明のロシア兵の問題だと言う。 「ロシア側のシステムは貧弱だ。国防省は秘密裏に戦死者のリストを作っていて、電話で名前を明かして質問すれば、リストにあるかないかは答えてくれるが・・・」 これに対して、ウクライナ側は戦時捕虜の扱いを定めた国際条約であるジュネーブ条約に全面的に則っていて、ロシア兵の捕虜全員をリスト化し、戦死者も可能な限りリスト化しているという。 「兵士の母の会」が問い合わせれば、捕虜に関してはほぼ確実に情報を知ることができるだけでなく、後日、ウクライナ側から連絡をしてくることもあるようだ。 「兵士の母の会」が当初懸念していたのは、捕虜の交換が行われるかどうかだった。 「はじめのうちはロシア側の情報がまったく整わず、捕虜の交換が行われるかどうかもわからなかったが、幸いにして交換は実現している」 しかし、ロシア兵の消息不明者については絶望的だと言う。 「消息不明者については恐ろしい状況だ。特定不可能な遺体の場合でも、戦闘中、砲弾が命中し、炎上して戦死したが、遺体の特定はできない、と軍から家族宛に連絡がいく場合もまれにある。しかし、負傷したのか死んだのかもわからない消息不明者の場合は、どうしようもない」 旧ソ連時代の1989年から活動を続けてきた「兵士の母の会」の歴史でも、今回のウクライナ侵攻ほど多くの戦死者、消息不明者が出たことはないからだ、と言う。 「第一次チェチェン紛争でも、ロシア軍にこんなに多くの戦死者は出なかった。(ウクライナに隣接する)ロストフのDNA研究所は稼働しているのだが、書類の記入方法など国防省の厳格な規則があって、それが戦死者の特定作業を阻んでいる」