処理水問題で実は焦る中国 日本は毅然とした対応を
8月24日に開始された福島第1原発関連の処理水の海洋放出をめぐって、中国側の異常な反応が目立つ。中国側は今年1月あたりからこの件について言及を開始し、すでに更迭された秦剛前外相も、今年3月の就任記者会見で明確に言及している。以降、処理水の海洋放出については、その安全性が科学的かつ客観的に担保されているにもかかわらず、中国側は日本に対する一方的で非科学的な論難を、次第にエスカレートさせてきた。 おそらく中国側が処理水について言及をはじめた背景には、日本が米国主導の対中半導体規制に協力し、また、台湾情勢についても中国の武力介入を許さない姿勢を明確化するなかで、対日牽制のカードとして利用する意味合いがあったと推測される。しかし、これは結果として中国にとっての悪手となった。 日本にとって、対中半導体規制や台湾問題と処理水の海洋放出はまったくの別問題であり、なんらの牽制効果もなかった。すると中国外交にはよく見られるパターンであるが、自分が勝手に振り上げた拳を、自分の面子のためにおろせなくなってしまい、悪循環に陥ったあげく、責任を日本側になすりつけ、さらにその声を大きくしている、というのが実相である。すなわち、中国式の「大国外交」が、またしてもオウンゴールで失点を決めた、ということである。
実は内心穏やかでない中国政府
中国側の失点はさらに続く。自らの正当性を示すために、国際世論を動員した対日包囲網の形成を試みたが、当然ながら先進各国や東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめとする国際外交の場では相手にもされなかった。加えて、自国領である香港に加え、フィリピンや一部の太平洋島嶼国などで親中勢力を動員し、日本への抗議デモを組織したが、まったく限定的でなんらの影響もおよぼすことができなかった。
さらに中国政府にとって予想外であったのは、国内向けのプロパガンダを煽り過ぎた副作用で、自国の一部民衆が屈折した正義感や愛国心に駆られ、日本への手あたり次第とも言える嫌がらせの電話や、在中国の外交施設や日本人学校への投擲などを始めたことである。これについて日本のメディアの一部には、背後には中国政府の黙認があるとの見方もある。 しかし、実のところ中国政府は、近年の強圧的な社会・経済政策のせいで高まっている民衆の不満が、限定的な反日感情として発露されるにとどまらず、燎原(りょうげん)の火の如く燃え広がって制御不能となり、自らに向かってくるリスクをもっとも恐れている。加えて、こうした排日運動が世界から注目されることは、すでに低迷している海外から中国への直接投資を一層冷え込ませるリスクがある。 国営メディアやSNSなどで、執拗に処理水の「危険性」や日本政府の「非」を喧伝しつつも、民衆の極端な行動については鎮静化を呼びかけるような論説がではじめたのは、内心穏やかではない中国政府の本音を象徴している。