狙いは半農半X 焼き畑 復活ののろし 滋賀県長浜市余呉町中河内
労力省き収入源に
かつて全国各地で営まれていた焼き畑農業をよみがえらせようとする動きが広がっている。地域の伝統農業の継承や、放置里山林の再生など、地域によって狙いはさまざま。少ない労力で一定の収入が得られる点に着目し、「半農半X」の形で、山村での収入源の一つに確立しようとする取り組みもある。復活ののろしを上げる現場を取材した。(北坂公紀) 滋賀県北部に位置し、福井・岐阜の両県と接する長浜市余呉町。豪雪地帯として知られ、国内最南端の「特別豪雪地帯」に指定されている。 同町の山間部にある中河内地区では、1960年代ごろまで焼き畑農業が営まれていた。森林ではなく、ススキなどが生える草地で行うのが特徴で、雪崩の影響で木が生えない山裾の草地を活用。火を入れて赤カブや雑穀を4年ほど栽培した後、数年から十数年の休閑期間を設けて草地を再生し、再び火を入れるという周期を繰り返す。 同地区に住む佐藤登士彦さん(83)は「それぞれの家ごとに、所有林や地区の共有林を焼いた。焼き畑は女性の仕事で、自家消費用の作物を育てた」と当時を振り返る。 だが、高度経済成長期のエネルギー革命で、燃料の主役が木炭から化石燃料に移り代わると、地域の主産業だった製炭業が衰退。働き手が地域外に流出する中、焼き畑農業は次第に姿を消した。 こうした中、同地区で2007年から復活に取り組むのが、研究者や住民でつくるグループ「火野山ひろば」だ。焼き畑農業を山村での暮らしの収入源の一つとして確立しようと模索する。 今年は7月下旬に約4アールの山裾の草地で草木を伐採。天日で約1カ月乾燥させた後、今月22日に火入れ作業を行った。 火入れ当日は、獣害防止のために周囲をトタン板で囲った圃場(ほじょう)の四隅にお神酒をまき、作業の無事を祈った後、圃場上方に横一列に着火。パチパチと音を立てながら火は徐々に下方に広がり、30分ほどで約4アールを焼き尽くした。 圃場にはその日のうちに赤カブとソバを播種(はしゅ)。赤カブは地域の在来品種「ヤマカブラ」で、現在の栽培農家が1戸のみと絶滅にひんした種だ。焼き畑農業に適応した品種で、火入れ直後でも種がまけ、約80度の地温で発芽率が最も高い。収穫は11月中旬の予定で、収量は1アール当たり100キロ程度を見込む。 滋賀県立大学の野間直彦准教授は「焼き畑農業は収穫まで基本的に放任で手間が掛からない。農薬・肥料費も不要で、カブだと4アールで数十万円の収入が見込める。作物や栽培規模を検討し、山村での『半農半X』の柱の一つにしたい」と展望する。/ 焼き畑農業は、国内では現在、およそ20地域で営まれている。江戸時代以前から長く続く山形県鶴岡市や宮崎県椎葉村のような地域もあるが、多くは近年復活させた。15年の島根県奥出雲町と熊本県水上村、12年の静岡市など2000年代以降の復活が相次いでいる。 京都先端科学大学の鈴木玲治教授は「近年、全国で焼き畑農業を復活させる動きが目立つ。地域の伝統農業の継承や放置里山林の再生、農作物のブランド化、地域おこしなど狙いはさまざまだ」と分析する。
<ことば> 焼き畑農業
森林や草地を焼き払って土地を切り開き、作物を栽培する農法。国内では1960年代以降に林業をとりまく情勢が変化するとともに衰退した。草木を焼くことで灰が肥料となる他、雑草や病害虫の駆除にもなる。作物の栽培期間は短期間で、必ず休閑期間を設けて植生を再生させるのが特徴だ。西日本・太平洋側は、ソバや雑穀、日本海側は、赤カブを主要作物として、それぞれ輪作することが多い。 森林破壊につながるイメージが一部にあるが、多くは森林を耕地化する際の「焼き払い」と混同されている。焼き畑農業は持続的な環境利用システムとされている。
日本農業新聞