IR汚職・証人買収で29日に初公判、無罪主張の秋元衆院議員は何を語るか
カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件で、収賄罪などで起訴された衆院議員秋元司被告(49)の初公判が29日、東京地裁で開かれる。事件の発覚後、秋元被告は贈賄側に裁判で虚偽の証言をする見返りに、現金の供与を持ち掛けたとして証人等買収罪で逮捕・起訴される事態に発展。同罪はマフィアなど国際犯罪組織の摘発を目的とし、テロ等準備罪と併せて導入されたが「適用第1号」が国会議員ということは、永田町や法曹界に衝撃を与えた。秋元被告は汚職・証人買収事件とも全面的に否認する構えだが、いずれの関係者も既に判決が確定している。収賄罪だけなら執行猶予だったとみられるが、保釈後の証人買収が判決で事実認定されるようなら心証はあまりに悪い。現職国会議員の実刑が噂されるだけに、弁護側の戦術が注目される。(事件ジャーナリスト 戸田一法) ● 保釈も証人買収で再逮捕 事件の発覚から時間が経過しているので、簡単におさらいしておきたい。 東京地検特捜部が秋元被告を収賄容疑で逮捕、議員事務所などを強制捜査したのは2019年12月25日。20年1月14日には別の収賄容疑で再逮捕した。 起訴状によると、秋元被告はIR事業に便宜を図ってほしいとの趣旨と知りながら、中国企業の元顧問2人から17年9月、自身が管理する会社の口座に200万円の振り込みを受けたほか、議員会館の事務所応接室で現金300万円を受け取ったとされる。
17年7月にはマカオへの旅行代金などとして約185万円、18年1月には北海道への家族旅行代金約76万円相当の利益供与を受けたとされる。 秋元被告は17年8月から18年10月まで、国土交通副大臣兼内閣府副大臣のIR担当として、IR区域の整備に関わる職務権限を有していた。元顧問2人はIR推進法成立当時の衆院内閣委員会委員長だった秋元被告に面会し、IR事業への参入に関して支援を依頼していたとされる。 ここまでであれば一般的な汚職事件だったはずだ。しかし、起訴後の20年2月12日、秋元被告は保釈。その後、自身の支援者らに依頼し、元顧問2人に偽証を働き掛けたとして逮捕されることになる。 特捜部は20年8月20日、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)容疑で秋元被告を逮捕した。容疑は知人の会社役員2人と共謀し同年6月と7月、前述の元顧問に裁判で偽証する見返りに計3000万円の供与を申し込んだとされる。 9月9日には別の会社代表ら2人と共謀し、もう1人の元顧問に計500万円の供与を申し込んだ疑いで再逮捕された(2件とも起訴済み)。 9月30日には汚職事件で認められていた保釈が取り消され、保証金3000万円も没取された。現在も起訴勾留中だ。 ● マフィア対策法に国会議員 冒頭、証人等買収罪はもともと「マフィアなど国際犯罪組織の摘発を目的」と紹介した。17年7月施行の改正組織犯罪処罰法で、犯罪を計画段階で摘発し処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」と共に新設された。 証人等買収罪は、刑事事件で偽証や証拠隠滅の報酬として関係者に金銭を提供する行為を処罰対象とし、相手が受領しなくても申し込んだ時点で対象となる。罰則は2年以下の懲役または30万円以下の罰金。組織犯罪の場合はさらに重くなり5年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。 これまで暴行や脅迫によって証言を誘導させる「証人威迫罪」「偽証教唆罪」はあったが、買収を取り締まる法律はなかった。 もともとは国連総会で2000年に採択された「国際組織犯罪防止条約」の締結のため、法整備が必要として審議された。野党は「捜査機関の乱用」を懸念して猛反発したが、裁判員裁判の導入で捜査段階の取り調べよりも、法廷での証言や供述が重視される「公判中心主義」が進んでいる現状から、こうした「司法妨害」を取り締まる有効性が期待されていた。