なぜエディー率いるイングランドはオールブラックスの3連覇を阻止できたのか?
横浜国際総合競技場を埋めた公式入場者数は「68843人」。応援歌の「スイングロー・スウィート・チャリオット」を背に、イングランド代表でインサイドセンターを務めるオーウェン・ファレル主将は「非常に楽しかったです。それは間違いない」と笑った。ワールドカップ(W杯)日本大会の準決勝で、ラグビー発祥国であるイングランド代表が大会3連覇を狙っていたオールブラックスことニュージーランド代表を19―7で撃破。3大会ぶり4度目の決勝進出を決めた。 オールブラックスがW杯で負けたのは、2007年に開催国だったフランス代表に屈した準々決勝以来、20試合ぶり。両軍の過去通算戦績は、これまでオールブラックスの33勝7敗1分で、イングランド代表がW杯でこのカードを制したのは4回目にして初めてのことだった。 敗れたナンバーエイトのキアラン・リード主将は、悔しさを噛み締める。 「全力を尽くしたが、相手のレベルに満たなかった」 強い相手へ違和感を覚えさせる。 それが、イングランド代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチの真骨頂だ。 指導者として関わる3度目のW杯となった4年前のイングランド大会では、当時W杯通算1勝だった日本代表を率いて3勝。南アフリカ代表との初戦では、最初のラインアウトで両軍の列の後ろへロングボールを投げさせたり、球を持てばポジショニングの乱れるウイングの後ろへキックを蹴ったりし、歴史的勝利の序章を奏でた。 イングランドはキックオフの前から仕掛けた。 オールブラックスが先住民族舞踊のハカ、しかも、大一番で多く見られるカパオパンゴを踊るのに対し、イングランド代表は、相手にくぼみを見せるようなVの字の陣形を作る。 ハーフ線を越えてハカに近づいた選手へは、レフリーが下がるように指示。やや異様な雰囲気となり、海外のニュースサイトでは、「(接近しすぎて)イリーガル(反則)」とも表現された陣容を取ったのである。 戦国時代の日本にあった中国伝来の8陣図に「魚鱗の陣」と「鶴翼の陣」がある。ハカの並びは武士が三角形を作るよう「魚鱗の陣」に似ていて、イングランドのVの字は「鶴翼の陣」とうりふたつ。「魚鱗の陣」には「猪突猛進型だが側面からの反撃に弱い」という普段のオールブラックスらしからぬ特徴があり、「鶴翼の陣」は相手を囲い込んで攻め落とすのに向いているとされる。 この陣形の狙いについてファレル主将は「そこにただ立って、受けるだけで終わるようにはしたくなかった。脅威を与えたかったので、フラットライン(横一列になって身構える一般的な形)ではないようにした」と説明。ジョーンズ・ヘッドコーチは、「答える必要はない」とはぐらかした。 指揮官が自身のルーツでもある日本の戦国史からヒントを得た可能性は薄く、負けたリードも「彼らが彼らのやりたいことをやっただけ」とオールブラックス陣営への精神的な影響はなかったと強調した。 だが、イングランド代表のラグビーが「鶴翼の陣」のようにオールブラックスを呑み込んだのは確かだった。