なぜ憲法は「取材の自由」を強く保護するのか? 首都大学東京准教授・木村草太
3 取材のための海外渡航
こうした憲法の理解を前提とすると、観光のための海外渡航と取材のための海外渡航とでは、同じ海外渡航でも、保護のレベルが変わる可能性が出てくる。観光も取材も、国民の生きがいであり、重要な行為だという点に変わりはない。違うのは、「政府が、それを恣意的な理由で規制する傾向があるかどうか」という点だ。政府が権利を濫用する危険が高いがゆえに、取材の自由が制約される場合には、「政府にとって不都合な事実を隠したい」という動機があるかどうかを慎重に検討するよう、憲法は求めている。 もちろん、取材の自由が憲法の強い保護を受けるからといって、今回の旅券返納命令が絶対違憲だということにはならない。しかし、落ち着いた検証をしてみるに越したことはないだろう。政府の側も、疑念を晴らすために、杉本さんの渡航計画の危険性を具体的に証明して行くべきだ。 -------------------- 木村草太(きむら・そうた) 1980年生まれ。東京大学法学部卒。同助手を経て、現在、首都大学東京准教授。助手論文を基に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)を上梓。法科大学院での講義をまとめた『憲法の急所』(羽鳥書店)は「東大生協で最も売れている本」と話題に。著書に『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『憲法学再入門』(西村裕一先生との共著・有斐閣)、『未完の憲法』(奥平康弘先生との共著・潮出版社)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)、『憲法の条件――戦後70年から考える』(大澤真幸先生との共著・NHK出版新書)などがある。