物価高と年収の壁でおせち製造も二重苦に…老舗社長が語る“現場の本音”「従業員に申し訳ない」103万円議論に困惑の声も
106万円の壁超えを進められない会社の事情
さらに、106万円の壁を超えて働く人が増えると、経営者側にも困ることがある。それは、従業員の社会保険料の支払いは従業員と会社の折半のため、先ほどの試算だと従業員が払うのと同じ年間約16万円を会社側も支払う義務が生じるのだ。辻本社長は物価高の中での、苦しい胸の内を次のように明かしてくれた。 「様々な物が値上がりしている昨今、少しでも手取りを増やしたいという声はよく耳にします。我々経営者としても、ぜひ稼いでいただきたいが会社負担の社会保険費用を考えるとそうとも言いきれない。会社としても106万円の壁が改善しない限り、ぜひもっと働いて下さいとは勧められないと思われます。103万円の壁をいくらか上げても、実際はそれほど働き控えが改善するものになる事はないのであろうと思っています。是非とも実際の現場に即した声を反映し議論を深めていただきたいと感じています」 さらに、「壁」の内側で社会保険料を免除される対象者について、厚労省は週20時間までの労働時間の人とする案を示しているが、辻本氏は「商売柄、繁忙期と閑散期の波があるので一律週20時間までというのではなく柔軟な働き方を選択できるような方向に議論が進めばと願います」と語った。まして厚労省が示している、106万円の壁を解消した場合に従業員負担分の社会保険料の一部を会社側がさらに負担する案などは、より厳しい状況を強いることになる。 そうした中で、辻本社長は、働き控え対策として、106万円の壁よりも103万円の壁が注目されている状況に首をかしげる。 前述のように103万円の壁については、学生の働き控え解消策としては有効だがパート主婦などの働き控え対策には必ずしも直結せず、政策経費的には、幅広い層への基礎控除額の引き上げという事実上の減税が核心だ。詳しく言えば基礎控除額が約30年間も据え置かれてきたことの是正に加え、さらなる大規模な所得税減税という意味の方が大きい。 そうした事情の中で「103万円の壁」が全面に出ていることについて、一冨士ケータリングの従業員からは「よくわからないのでわかりやすく説明して欲しい」という声が出ていて、総務や人事の担当者からは「実態に合わない断片的な情報を取り上げられると、従業員も誤った情報のもとで相談にくるので困ってしまうという面もあります」という困惑の声が出ているという。 年末にかけて与野党での政策議論か活発化する中、年収の壁について、どの壁をどこまで解消し、それと共に事実上の減税となる基礎控除拡大をどこまで行うのか。そして財源をどうするのか。物価高に苦しむ現場の声に耳を傾けて、真に国民のためになる、わかりやすい議論を期待したい。 (フジテレビ政治部デスク 髙田圭太)
髙田圭太