物価高と年収の壁でおせち製造も二重苦に…老舗社長が語る“現場の本音”「従業員に申し訳ない」103万円議論に困惑の声も
「申し訳ない」社長が語る従業員への思い
では、この物価高にどう対応しているのか。辻本社長は値上げにも限度がある中での苦労、そして従業員への思いを語る。 「仕入れ価格の高騰を売価に転嫁するのも限度があり少しずつ粗利益を削っている状態で、根本的な解決になる対策はなく我慢の状態です。取引先や仕入れ価格の見直しなども行っていますが仕入れ先も同じ状況で限度があります。どこまで上がるのか天井が見えず不安を感じています。また物価高に比例して従業員の給料を上げてあげることが出来ず我慢を強いているので申し訳ない気持ちです」 長引く物価高が従業員の生活も会社経営も圧迫する中、給料を上げても物価高に追いつかない状況を嘆く辻本社長。そしてもう1つ、おせちづくりの現場で悩みの種となっているのが、年収の壁の問題だ。
おせち作りの現場に立ちはだかる106万円の壁
「一冨士ケータリング」には約300人の従業員がいるが、年収の壁の範囲内で働いている人は約160人と半数以上に上る。その多くが、夫の扶養家族に入れる範囲内で働いている既婚女性だ。その従業員からは「物価高は致し方ないのでそれに充当すべく少しでも多く手取りが増やしたいが働けない」という声が相次いでいるという。 年収の壁には、国民民主党が衆院選で掲げた所得税の103万円の壁、社会保険の扶養に関わる106万円の壁(従業員51人以上の会社)と130万円の壁(従業員50人以下の会社)、配偶者特別控除が満額受けられなくなる150万円の壁などがある。 では、辻本社長の会社の従業員たちが直面している一番の壁とは何か、それは106万円の壁だという。 なぜかというと、103万円の壁については、配偶者の扶養に入っている場合は、103万円を超えても配偶者特別控除が受けられるため、壁による手取りの急減は起きず、働き控えをする必要はないからだ。配偶者がおらず親の扶養に入っている学生などにとっては、親の控除がなくなり世帯の手取りが減る103万円の壁は深刻な課題だが、一富士ケータリングの従業員に対象者は比較的少ない。 一方で、106万円の壁の方は、壁を超えて働くと夫の社会保険の扶養から外れ、自身で健康保険料や年金保険料などの社会保険料を払う必要が出てくる。その額は40歳以上65歳未満で年収106万円だと、年間約16万円の負担と試算される。そのため106万円を超えて手取りを増やすためには、年収125万円ほどまで働いてやっと手取りが増えるとされ、この場合19万円分の労働は働き損になってしまうのだ。 辻本社長は「弊社では従業員の中でも子育て世代の主婦パートが占める割合が高い。その方々からは扶養は外れたくないという声が多い。労働力不足で少しでも労働力を確保したいが、どうしても扶養を外れるのは困ると労働を控える方が多いため、年収の壁がない他の従業員に無理を強いざる得ない状況で生産性が下がっている。さらに壁のない従業員の負担は大きくなるという悪循環に陥り困っている」と語る。