Sigfoxは次世代へ、新たなオーナーUnaBizの戦略
sigfoxを「買収した」スタートアップ 代表的なLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークの一つであるSigfox。フランスSigfox社が手掛けていたが、2022年4月、シンガポールのスタートアップUnaBiz(ウナビズ)がSigfox社を買収したことで、Sigfoxの事業はUnaBizが展開することになった。 ニチガスのスペース蛍を、開発に使用したガスメーターモックアップに取り付けた様子(写真左)[クリックで拡大] 出所:UnaBiz だがこの買収は、単なる買収ではない。実は、UnaBizはもともとSigfoxのサービスプロバイダー(オペレーター)だった。つまりUnaBizは、Sigfoxの“サービスプロバイダー”から”オーナー”へと転身を遂げたのである。 UnaBizは2016年に創業した。現在は200人の従業員を抱え、シンガポール、台湾、日本、フランス、スペイン、オランダに拠点を持つ。同社の共同設立者でCEO(最高経営責任者)を務めるHenri Bong氏は、もともとSigfox社の従業員で、APAC(アジア太平洋地域)のビジネス開発およびセールスディレクターを務めていた人物だ。ディレクターとして、日本や香港、オーストラリアなどでSigfoxオペレーターのパートナー開拓に携わった。日本のSigfoxオペレーターである京セラコミュニケーションシステム(KCCS)との契約にも、Bong氏が関わっている。 その後、Bong氏はSigfox社を退職。Sigfoxオペレーターとなるべく、UnaBizを創業した。「Sigfox社ネットワークが拡張し、KCCSなどが成功していくのを見て、自らオペレーターとなり展開してみたくなった」とBong氏は語る。もう一つ、Sigfoxを活用するソリューションを開発するというのも、UnaBiz操業の大きな狙いだった。「われわれは、ソリューション開発のために強力なエンジニアリングチームを作るというビジョンを持って、UnaBizを創業した」(同氏) 2018年にはシリーズA投資ラウンドで1000万米ドル以上を調達。KDDIやSORACOMがこの投資ラウンドに参加している。同年には、5種類のセンサーを搭載したセンサーデバイス「UnaSensors」を発売した。 UnaBizが開発したソリューションには、UnaSensorsの他、センサーを搭載したSigfox開発キット、IoTデータ管理プラットフォーム「UnaConnect」、物流などに向けた資産追跡ソリューション「Unatag」などがある。Sigfoxに接続されているUnaBiz製品は世界で900万個以上に上るという。 日本でのマイルストーンとしては、ニチガス(日本瓦斯)とのスマートガス検針器のプロジェクトが挙げられるだろう。ニチガスは2019年11月、UnaBizとSORACOMが開発したSigfox対応スマートガスメーターを導入し、2020年度末までに、国内に設置されているニチガスのガスメーター85万台をスマート化すると発表した。その後スマート化されたガスメーターはさらに増え、2022年時点で115万台を超えている。 2021年10月には、シリーズB投資ラウンドで、日本の独立系投信投資顧問企業であるスパークス・グループから2500万米ドルを調達した。「このようにUnaBizは日本企業ととても関係が深い」(Bong氏) “オペレーター”から”オーナー”へ Bong氏は、UnaBizによるSigfox社買収は、特にIoT業界を揺るがしたと語る。「いわば子会社が親会社を買収したようなもの。このような話は、同業界では聞いたことがない」とBong氏は述べる。 2010年に設立されたSigfox社は、言うまでもなくLPWAのパイオニア的企業だった。「Sigfox社は、フランスのテック企業として初めて3億ユーロ以上を調達し、フランス初のユニコーン企業として名をはせた」(Bong氏)。Sigfoxネットワークは70カ国以上に展開され、UnaBizやKCCSをはじめ、各国のオペレーターはSigfoxの技術に継続的に投資してきた。だが2022年2月、Sigfox社は経営難から破産を申請。再建に向けて新しい出資先を探すとした。そこで白羽の矢が立ったのが、UnaBizだった。 「Sigfox社の買収候補には、UnaBizを含めて9社あった。その中でわれわれは最も小さな企業だった」(Bong氏)。だが既定の手続きをへて、Sigfox社の従業員や、Sigfoxネットワークのオペレーターなどエコシステムのメンバーが満場一致で新オーナーとして選んだのが、UnaBizだったのである。企業の規模に関係なくSigfoxの技術に知見を持っていたことが評価されたとBong氏は述べる。 Bong氏はSigfox社の倒産について「IoT市場の成長が5年、遅かった」と分析する。そこにCOVID-19が追い打ちをかけた。半導体不足により、Sigfox製品の供給が追い付かず、需要に応えられなかったのだ。 UnaBizがSigfoxネットワークで目指す3つの戦略 Sigfoxのオペレーターでもあり、オーナーでもあるUnaBizは、Sigfoxのネットワークを次の段階に引き上げることを目指す。オーナーとして、Sigfoxの仕様開発やプロトコル変更/改善など、ネットワークのコアな技術に携われるようになるので、「大きなチャレンジだが、非常にエキサイティングな立ち位置を確保した」とBong氏は強調する。 Sigfoxを進化させていく上で、Bong氏は3つの戦略を考えている。1つ目は、オープン性と相互運用性だ(Bong氏は「オープン&コンバージ(Open and Converge)」と表現していた)。Sigfoxは独自プロトコルを用いているLPWAだが、これはある意味「排他的で閉鎖的」だとBong氏は述べる。「われわれはこうした環境を変え、例えばSigfoxモジュールのライブラリをオープン化するなど、誰もが、より簡単にSigfox市場に参入できるようにしていきたい」(同氏) さらに、LoRaやWi-SUNなど、920MHz帯のアンライセンスバンドを使用する他のLPWAとの相互運用性の実現も視野に入れている。「現在、73カ国で展開されているSigfoxの基地局が、他のLPWAのプロトコルもサポートできるようになり、LPWAのユーザーが同じモジュールを使用できるようになれば、利便性は非常に高くなるだろう」(Bong氏) 2つ目は、さらなる低コスト化、低消費電力化である。「セルラーネットワークは、より高周波、より低遅延の方向に向かっている。LPWAは、より低コスト、より低消費電力の方向性で進化し、差別化していく」とBong氏は述べる。「現時点でもSigfoxのモジュールは、Wi-FiやBluetooth、LoRaなどのモジュールに比べて安価(約3米ドル)だが、さらなる低価格を目指す。最終的には1米ドルを切る価格帯での提供も視野に入れている」 3つ目はサステナビリティ(持続可能性)の実現だ。例えば、環境発電を利用してデータを送信できれば、バッテリーの製造量や搭載量を低減できる可能性がある。より低消費電力化すれば、それだけバッテリー寿命が長くなり、部品の廃棄量の削減にもつながる。 日本市場での狙い、引き合い 先述したように、UnaBizは早い段階から日本でパートナーやクライアントを開拓し、ニチガスの事例のように大型プロジェクトも進めてきた。日本でのビジネス拡大に本格化すべく、ちょうど1年前となる2021年6月には日本オフィスを開設している。 UnaBiz Japanの代表取締役を務めるPascal Gerbert-Gaillard氏は、日本で注力するアプリケーションとして、スマートメーカー、スマート施設管理、資産トラッキングの3つを挙げた。特に、3つ目の資産トラッキングについては急成長を見込んでいるという。 スマート施設管理については、2022年4月にソフトバンクロボティクスグループとの戦略的提携を発表した。両社は、Sigfox対応のIoTセンサーとロボティクスを統合し、施設の管理や清掃、メンテナンスのスマート化を目指す。
EE Times Japan