着物の需要減少に危機感を抱いた3代目 家族経営の染工房が開発したスカーフがパリへ
引き染めスカーフをパリに出展
2023年には、同公社の「東京手仕事」にも採択されました。自社製品の研究開発と普及に向けて、市場調査やテストマーケティング、海外展示会出展のサポートを受ける2カ年プロジェクトです。 「東京手仕事」を通じて中村さんが生み出したのが、東京引き染めスカーフ「Jantle」(税込み1万9800円)です。初の自社製品として、2024年5月に発売しました。 「伝統工芸や和小物という枠に縛られず、引き染めの魅力を伝えるならスカーフがベストだと思いました。引き染め特有のツヤや深み、派手な色との相性の良さを表現し、スマートな1枚に仕上がりました」 発売から半年が経過し、売り上げは「全体の2割ほど」といいますが、本業である着物の引き染めへの波及効果がありました。「これまでは着物作家さんとしか取引がありませんでしたが、企業から引き染めを用いた商品開発などを相談されるようになりました」 メディアからの問い合わせも相次ぎ、テレビ局の取材が3件決まりました。 2024年9月には「東京手仕事」の一環で、パリの展示会「Maison et Objet」(メゾン・エ・オブジェ)に出展しました。「鮮やかな『Jantle』に注目が集まり、他の商談も動き出しています」
20歳の4代目と切り開く未来
2024年は他にも大きな変化がありました。4月に長男の拓朗さんが4代目として正式に家業に入ったのです。 20歳の拓朗さんは「高校卒業まで工房の中に入ったことがなく、家業について具体的には知りませんでした」といいます。中村さんの誘いで展示会や着物作家の商談に同席。「その道のプロの方の話を聞き、『この仕事、面白いな』と思いました」 中村さんも拓朗さんを頼りにしています。「私のキャリアはほぼ職人一筋。恥ずかしながら、ビジネスメールの書き方やパソコン操作、SNSは息子に教わりました」 中村さんは「これからも挑戦し続けたい」と決意を固めます。 「オーダーメイドサービスや自社製品は、技術的価値を正しく伝え、下請け価格を上げる第一段階です。ゆくゆくは息子が『染めの仕事は将来性があって魅力的』と胸を張れるよう、今できることに取り組みます」
ものづくりライター・佐藤優奈