着物の需要減少に危機感を抱いた3代目 家族経営の染工房が開発したスカーフがパリへ
伝統工芸の支援プログラムに応募
中村さんは現状を打破するべく、2021年、東京都中小企業振興公社の「職人ステップアップ事業」(伝統工芸品産業経営課題解決支援事業)に応募します。経営課題の解決に寄与できる専門家が、最大10回まで無償で派遣される支援制度です。 「引き染めは着物の制作工程の一部であって、伝統工芸品目ではありません。でもあきらめたくなかったので、担当部署に手紙を書き、事業者に採用されました」 中村さんは派遣された経営コンサルタントと、事業の棚卸しに着手しました。 「最たる武器は、創業から積み重ねた引き染め技術だと気づきました。まずは技術力が伝わる自社製品やサービスを提供し、納得のいく価格で売ることで、徐々に下請け価格を上げられるのではという結論に至ったのです」
オーダーメイド着物を始めたが…
2022年から、個人客をターゲットに無地のオーダーメイド着物制作をはじめました。色々な模様(地紋)が入った白生地を選び、染める色を決め、仕立屋が着物や浴衣に仕立てます。中村さんは実作業だけでなく、工程全体を管理する総合プロデューサーの役割を務めました。 「パーソナルカラーの診断士を工房に呼び、一般の方がお持ちの帯や好きな色をヒアリングしながら染料を決めます。染め上げた反物は、他の工房の仕立職人が着物へと仕立てます。まさにゼロからの着物作りです」 SNS発信や着物展示会への出店も始めました。価格は色無地で17万6千円からですが、当初の売り上げは芳しくありませんでした。「着物の染めに特化した工房のため、着物業界ではネームバリューも販路も足りません。『ふじや染工房』というブランドを広げる必要がありました」
引き染めイベントで得た気づき
まずは地域での知名度を上げるべく、2023年に「親子de手ぬぐい染め体験」というイベントを始めました。 「工房は一見普通の建物なので、近所の方から見て何をしているのかわかりにくい場所でした。地域の子どもに引き染めの楽しさを知ってほしくて、実験的に企画しました」 すると初回からほぼ満員に。親子連れなど毎回10人前後が参加し、工房ににぎわいが生まれました。 中村さんはすぐに家族会議を開き、成功の要因を探りました。父や息子にも意見を聞き、明確なターゲティングに基づいたPRの重要性に気づいたのです。 イベントのターゲットは地域の親子です。地元の図書館や保育園、児童館に集中的にチラシを配りました。予約システムも20~40代の親世代が使い慣れたQRコードに一本化し、予約のハードルを下げました。 「オーダーメイド着物制作は自由度が高いサービスです。あえてターゲットを広く設定していましたが、顧客像はコアであるほど、PRが刺さりやすいとわかりました」 「親子de手ぬぐい染め体験」は2024年もゴールデンウィークと夏休みに開催。各回満員となりました。「これを機に毎週家族会議を開き、お互いの気づきをシェアしています」