着物の需要減少に危機感を抱いた3代目 家族経営の染工房が開発したスカーフがパリへ
東京都新宿区のふじや染工房は、反物の着色を担う工房です。引き染め技術を生かし、主に伝統工芸の東京手描友禅の反物を染めています。3代目の中村隆敏さん(46)は24歳で家業に入りました。着物需要の落ち込みや技術力のアピールが課題でしたが、伝統産業の支援プログラムを活用。引き染め技術でスカーフを開発したり、親子向けのイベントなどを始めたりして、従来の枠からはみ出そうとしています。2024年はフランスの展示会にスカーフを出展、4代目となる長男も家業に加わるなど、活路を切り開くための足がかりを築いています。 【写真特集】下請けだけじゃない 中小企業の技術がつまった独自製品
伝統の「引き染め」を守り続ける
ふじや染工房は1952年、中村さんの祖父が創業しました。当初は帯専門でしたが、徐々に顧客を増やして工房の敷地を広げ、着物が染められる広さになりました。現在は中村さんの父で2代目の博幸さん(76)と母、長男の拓朗さん(20)の4人による家族経営です。 完全分業制が主流の着物づくりは、完成までに多くの工程があり、それぞれを異なる職人が担います。ふじや染工房は、白生地の反物を染料で着色する「染め」専門です。主に着物用の反物を扱い、受注数は年間500~600反になります。最終製品は一般向けの着物展示会で販売されることが多いそうです。 中村さんは「仕事の約8割は、江戸時代中期からの伝統工芸品『東京手描友禅』の着物作家さんからのオーダーです。反物を預かり、指示書通りの色に染め上げて色止めし、納品するまでが私たちの仕事です」といいます。 「引き染め」という伝統技法を使い、工房内に反物を張りめぐらせ、染料を含んだハケで1枚1枚色付けします。 「引き染めの特徴はクリアな発色です。常温の染料で染めるため、色のツヤと鮮やかさが保てます。白い反物をいちから染めるため、着物作家の要望に沿った色を再現できるのも、引き染めの良さです」
建設業の現場監督から家業へ
そんな中村さんも、かつては「家業に興味はなく継ぐ気もなかった」といいます。 「子どものころから家と工房が同じ建物で、30年ほど前までは職人さんと寝食をともにしていました。多くの人が出入りする環境が苦手で、鍵っ子になりたいと思っていました」 工房では顧客から預かった反物を染めて納品します。「大切な反物が汚れたら一大事なので、子どもは工房内立ち入り厳禁。染料やハケで遊ぶなど、もってのほかでした」 高校卒業後、福島県の大学に進学。土木工学を学び、現場監督になりました。「大学時代はのびのびと遊び、卒業後は道路や橋を作っていました」 それでも中村さんは2002年、家業に入ることを決めました。 「幼少期から出入り業者や職人に『いつか継ぐ』と言われ、家を出てからも出会う人に家業を説明するたび、同じことを言われ続けました。自分にしかできない仕事かも、と思うようになったのです。都内で染工房を開業しようと思っても、うちと同じ設備や広さを整えるのは難しい。恵まれた環境があるのに挑戦しないのはもったいないとも思いました」