渋沢栄一の子孫が語る、コロナ後の未来を拓く視座
2月からスタートするNHK大河ドラマ『青天を衝け』。主人公・渋沢栄一は、2024年から新一万円札の肖像にもなります。世界中がコロナ禍にあるいま、渋沢栄一が100年近くも前に刊行した1冊の本に注目が集まっています。それが『論語と算盤』です。 渋沢栄一は常に「公益」と「利益」の調和を図り、「商売は道徳によって成り立つ」と説いたことで知られます。彼の理念が詰まった『論語と算盤』は、いまでもビジネスリーダーに愛読されています。 ここでは、渋沢栄一の玄孫(5代目)にあたり、コモンズ投信の創業者・会長で、わかりやすい現代語訳である『超約版 論語と算盤』を刊行された渋澤健氏に、お話をうかがいました。
渋沢栄一が直面した時代の「変化」
新しいお札の顔として、またNHK大河ドラマの主人公として、注目を集める渋沢栄一。多くの事業を興し、「日本近代化の父」とも呼ばれる彼の言葉を集めた講演録が、『論語と算盤』です。 『論語』は、古代中国の思想家である孔子の教えをまとめたもので、道徳などについて述べています。渋沢栄一の場合、ただこの『論語』について説明しているのではなく、同時に算盤、つまり経済について論じています。道徳と経済活動が一致すべき、それが渋沢栄一の考えでした。 この『論語と算盤』は、大正5年に初版が刊行されてから現在に至るまで、経営や生き方の参考として、多くの人に読み継がれています。ただ、やや難しい言い回しの多い書籍ですから、少しハードルが高いように感じる人もいるかもしれません。 渋沢栄一が生きたのは、日本の社会が近代化に向けて大きく舵を切った変化の時代でした。当事者が好もうが好むまいが、変化は否応なく訪れるものです。そして、社会が変化する時代に、人々がかならずぶつかるのが、「本当に大事なものは何か?」という問いです。 変化のなかで渋沢栄一が目指していたのは、国民が豊かに、機会平等な社会で暮らせることでした。また、当時の日本社会には、西洋に追いついたことで、おごりのようなものがあったと思われます。 それを一度リセットし、なぜ自分たちが発展できたのかを見直し、原点回帰しなければ、子どもたちに豊かさをバトンタッチできないかもしれない、そういう危機感も渋沢栄一にはあったように思います。 これは、現代の日本にもいえることです。長年「デフレデフレ」といわれながらも、日本人はかなりいい生活ができています。経済的にも、社会的にも、自然的にも豊かです。ただ、そこで思考停止してしまえば、その豊かさはいずれ失われます。そのことを目に見える形で示したのが、昨年からのコロナ禍でした。 自分や家族が大切なのはもちろんですが、家にこもっているだけでは社会が止まって大変なことになる。それを肌で感じた数カ月だったと思います。同時に、自分や家族を大切に思うからこそ、社会にも豊かさを還元しなければならない、ということも感じたのではないでしょうか。 一人ひとりの行動、思いというものはけっして無力ではありません。ベクトルを合わせられれば、大きな時代変革を起こすことができるのです。今は、そんな時代の節目を迎えているのではないかと思っています。