西武を悩ます平良の“反乱”【白球つれづれ】
◆ 白球つれづれ2024・第46回 記録的な大敗から、巻き返しを期す西武の気勢が上がらない。 シーズンオフになると、後藤高志オーナーがファンの前で今季の不成績を謝罪、積極的なチーム再建に大号令を発したが、現時点では起爆剤となる補強すら見出せない。 そこに、契約更改交渉では平良海馬投手が、自らの“職場”について不服を申し立て、新たな火種になっている。 西口文也新監督の下では、再びセットアッパーやクローザーと言った抑え役に戻ることを期待されているが、本人は一昨年から先発転向しただけに受け入れがたい。平良にとっては、長年、球団と話し合って掴んだ先発の座。しかし、球団側にとってもチームの編成上、背に腹は代えられない強い要望なのだ。 49勝92敗3分け。球団史上ワースト記録を次々と塗り替える大敗からの再出発。指揮官は松井稼頭央監督から、シーズン途中に渡辺久信GMが監督代行を兼務したが、どん底状態が続き西口新監督にバトンタッチした。 チーム打率.212、同得点350に同本塁打60はいずれもリーグ最低。主たる敗因は貧打線に尽きる。 主砲・山川穂高選手のソフトバンクへのFA移籍に伴い、メジャーで実績のあるヘスス・アギラーとフランチー・コルデロの両外国人に大砲役を期待したが、いずれも不発で解雇。若手の成長に後を託しても、不動のレギュラーは現れなかった。 一方の投手陣はチーム防御率3.02でリーグ4位ながら、日本ハムやロッテとは同等か、それ以上の成績を残している。エースの髙橋光成こそ0勝11敗の惨憺たる成績だったが、今井達也と新人の武内夏暉は2ケタ勝利を挙げ、隅田知一郎もオフの侍ジャパンに選出されるほどの実力の持ち主。投手が好投しても打線が不発で、接戦を落とす場面も多く一概には責められない。 だが、このオフに長年クローザーを務めてきた増田達至投手が引退。さらに今季28セーブで守護神となったアルバート・アブレイユも退団して中継ぎから抑えの再構築が喫緊の課題となっている。そこでキーマンとして浮上したのが平良の抑え役再転向である。 最速160キロの快速球にフォーク、スライダー、チェンジアップなどを交えた投球は誰もが認める一級品。22年には最優秀中継ぎ投手賞を獲得し、先発転向の昨年はチームトップの11勝もマークしている。今季は右前腕部の張りなどで出遅れ3勝2敗に終わったが、プロ7年で393回1/3投球回に対して426個の奪三振数は、いかに平良が優れた投手かを示している。 入団直後から先発へのこだわりを持っていた平良だが、もう一つの要因はメジャー志向ともつながっている、と言う声もある。かねてから、将来はメジャー挑戦を希望する者としては、セットアッパーのような中継ぎ要員より、先発で数字を残した方が評価は高くなる。まして、長年の交渉の末に掴んだ先発の座を簡単に明け渡す気にはなれないだろう。 平良と球団。どちらの言い分も分かれたまま平行線をたどりそうな交渉はこの先も難航が予想される。加えて、球団では渡辺前GM兼監督代行の退団により選手との窓口役も広池浩司前編成統括に代わったことで、新たな対応に迫られている。 来季のコーチングスタッフこそ、一軍ヘッドに鳥越裕介、野手チーフ兼打撃部門に仁志敏久氏など外部の血を導入して改革を目指すが、FA戦略では早々と撤退。 ドラフトでも即戦力の宗山塁選手(明大から楽天)獲得を狙ったが抽選に敗れて高校生の斎藤大翔選手(金沢高)を1位で獲得。将来性はともかく、来季の一軍戦力とはなりそうにない。今後はレアンドロ・セデーニヨ(前オリックス)や、ダヤン・ビシエド(前中日)ら国内で活躍した外国人獲得に動くと見られている。 今季、下剋上で日本一を達成したDeNAの例を挙げるまでもなく、親会社からフロントまでが共通したチーム強化ビジョンを共有、実践したチームは強くなり、人気球団となっている。 今の西武に求められるのは、チーム改革のために大ナタを振るえる人材だ。 平良の“反乱”は、どのような決着を見るのか? まずはフロント陣のお手並み拝見である。 文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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