Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

小林圭──こんなことでは負けられません【GQ JAPAN連載特集:希望へ、伝言】

配信

GQ JAPAN

日本人ではじめてフランスでミシュラン3ツ星を獲ったパリ「Restaurant KEI」のオーナーシェフ、小林圭さんは、外出制限があけ、レストランの営業再開に向け奮闘しています。 【そのほかのメッセージを読む】錦戸亮、美輪明宏、YOSHIKIらが緊急参加!

──あなたの現在の日常について教えてください。コロナ 問題以前と変わったこと、新しい習慣、仕事や家族との向き合い方、その他、この期間に考えたことなど、どんなことでも構いません。

日常は激変しました。いまはほとんど家の中で過ごしています。僕は料理人間なので1日の半分以上は料理本を眺めていますね。パソコンを使って情報収集したり、本を見たりしながら「こういう風に作ったほうがいいのかな」と考えています。料理本は食材、発酵、科学などあらゆるタイプの専門書を熟読しながら、自分にないものを勉強しています。 フランスの3ツ星シェフは誰もが強いインパクトを持っています。例えばアラン・パサールは世界で最初に低温料理を提唱しました。その後、“肉の魔術師”と呼ばれるほど、完璧な火入れの肉料理に打ち込んだ後、自分の菜園を作って野菜料理を強化していきました。アラン・デュカスはオリーブオイルを駆使して、フランスの高級料理を作っていきました。今年、3ツ星を獲得したラ・ロシェルの「クリストファー・クルタンソー」は、大西洋沿いの港町ならではの特産物で独創的な料理を生み出しています。その点、僕はパリのシェフであり、パリという都会にいる強さといえば世界中から食材が入ってくること。それに僕自身が、ある意味ダブル・ナショナリティーでいるような気がします。最良のものが手に入る中での選択肢がある。コスモポリタンなパリという都会で、いまのフランス料理を探ること、これが僕の課題です。いまは42歳ですが、21歳で日本を離れたので、フランス生活の方が長くなってきています。2つの文化を融合できる強みがある。この有り余る時間を利用して、どの部分を強化できるのか考えたいです。 これを機会に料理の方程式は崩さずに、考えを一新する。新たに組み立て直そうと思っています。食器、食材、料理を作るプロセス、サービスの仕方も、感性を含めて、これまで以上にレベルアップしたいからです。これまでの料理の方向性──「材料に負担をかけずに、元の材料よりもさらに美味しくする」──は、ある程度、決まっているのですが、だからこそパリにある、さらに美味しいものを目指したい。素材ひとつひとつを考えて世界一のお皿を作っていきたいです。そのためには、いまの時間を利用して、いろんな人の考え方を吸収したい。人の考えをコピーするのではなくて、いろいろな考え方を知る必要があると思うからです。世界の料理に思いを巡らせると、僕は10%も知らないと思うんです。フランス料理をとっても20%くらいしか知らない。あとの80%は勉強していなかければならないと思うんですよね。少しずつでも100%に近づけるためには、どうすべきなのか。自分ができるのは料理なので、言葉で、ではなく料理で、どういうメッセージを送っていけるか。お客さんから、君のメッセージを受け取りましたよ、と言われる料理人になりたいですから。言葉のキャッチボールではなく、料理を通して心に響くキャッチボールをしたいと願っているので、その為にはどうして行くべきかを考えます。 特にいま僕が興味を持っているのは世界の料理とフランスのテロワール、そして酸味についてです。例えば、発酵の国からやってきたというのに、これまで試しにヴィネガーを作ったことは1、2回ありますが、漬物さえ作ったことがなかった。僕の料理では柑橘や酸味のある野菜を使って、必要な場合は既存のヴィネガーに頼っていました。ですが、自分の料理にピタリと決まるヴィネガーを生み出したら、もっと料理が美味しくなるんじゃないかと思えるのです。最低10種類~15種類くらいのヴィネガーを調べて、それぞれの作り手の考え方を比較し、自分なりの味を極めていく。戦争に行くわけではありませんが、自分は攻めたい方。攻めるためには絶対、武器が必要です。ですから、この時間を使って武器を作って、武器を揃える時間にしたいと思っています。 この機会だからこそ、家族に合わせた生活をしています。6歳半になる息子がいるのですが、これまで2人で散歩することは6年半の間で2回しかなかった。妻には店に出てマダムとして働いてもらいながら、家庭内のケアはすべて妻に任せていました。改めて実感したのです。僕は料理一本で不器用で、自分はちょっとダメなお父さんだったと思うんですよね。外出制限中は、夜7時から1時間、外出許可が出ているので、息子を連れて歩きに出ています。レストランが再開したら、息子が20歳になるまで、あと何回散歩できるのか、あと何回一緒にスポーツできるのか、わからないと思うんです。 だからいまは家族の絆を大事にしたいです。朝食と夕食は一緒に食べるようにしています。そして自分の料理を息子にも食べてもらう。もちろん子供バージョンではありますが、少しずつ慣れていってもらう。このくらいなら子供でも美味しいと思ってくれるのか。子供と美食家の大人で共有できる“おいしい”の着地点はどこにあるのか探ったりもしています。逆境だからこそ生み出せるものは必ずあって、子供達の未来、食育についても考えるきっかけになりました。

【関連記事】