トヨタが描く“マイナス”エミッションの未来 寺師副社長インタビュー(5完)
●インタビューを終えて
インタビューを終えて、正直トヨタの意識の高さと準備の周到さに圧倒された。トヨタはいつからこういう会社になったのだろうと思った。ホンの10年ちょっと前までトヨタはもっと傍若無人だった。こんな会社ではなかったと思う。最新の決算でも2兆4000億円と言う国家予算級の利益を上げているにも関わらず、おそらくは世界の自動車メーカーの中で最も強い危機意識を持ち続けている。それは本当に不思議なことだ。変な言い方だがこれで調子に乗らないというのもむしろ人間味に欠けているのではないかとすら思う。 不思議だと言いつつ、実は筆者はその理由を大体知っている。ただそれだけで本当にここまで変わるものかと腹落ちしないだけだ。2010年に北米の大規模リコールで公聴会が開かれた時、トヨタは何をどう説明しても全く信じてもらえないと言う恐怖を味わった。そして日本の多くの人は知らないが、あの時、一歩間違えばトヨタは潰れていた。日頃から社会に貢献し、良き企業市民である姿勢を見せておかねばならない理由を、多分あの時トヨタは思い知ったのだ。だからトヨタは必死に、「生きるか死ぬか」という思いで変わろうとしているのだと思う。 何よりも一人で全部できるわけではないという思想をあらゆる面から感じる。「世界のトヨタだ」と大見得を切っても、人が動いてくれなければ結果は出ない。お客様、仲間づくり、チームジャパン。そういう言葉はあの北米の公聴会が起点になっているのだと筆者は思っている。
--------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある