プロ作家が取材で実践する「本を書くための」ノート術を公開。取材で「ICレコーダー」をあえて使わず、手書きにこだわる理由とは?
〇ポイント2 左側のページでは、インタビューの内容を時系列に沿って書くのではなく、話の中から意外性のある小ストーリーを見つけ出し、小ストーリーごとにグループ分けし、そこに当てはまると思った内容を書いていく。企業の経営者へのインタビューだとしたら、「社内派閥」「不正事件対応」「M&A」などと分類するということだ。 小ストーリーで分けるのには理由がある。意外性のある話を分類し、それぞれをストーリー化できるくらい情報を収集するためだ。また、あちらこちらに話が飛ぶことがあるので、それぞれのエピソードがどの小ストーリーに属するかを考え、適切に配置することも同時にできる。
2時間の取材が終わった時に、小ストーリーのグループが4つから8つくらいできているのが理想だ。こうして作った小ストーリーは、本の構成を決める際に用いる。 〇ポイント3 右側のページでは、話題に出てきたこと以外のあらゆることをメモする。取材では話の内容こそが重要と思われがちだが、いざ文章化しようとすると、それだけではまったく足りないことがある。相手の言葉より、身につけている服のブランド、部屋にたちこめる異臭、壁にかけられた写真といったものの方が、より本質を表していることが少なくないのだ。新聞記事などの文章ではさほど重視されないが、文芸作品としてのノンフィクションには必要不可欠な情報である。
〇ポイント4 小テーマを深く掘らなければ、読者は意外性の背景にあるものを理解してくれない。それには、事前に用意した質問を順番に投げかけるのではなく、進行形の会話の中から「次に何を聞けば、話が深まるか」を考えるべきだ。時として、その質問が同時に3つも4つも浮かぶことがあるので、忘れないうちにマス目の外の空欄にメモしておく。 先に、私はこの一連のノートの取り方を「テーブルを挟んでインタビューを行う時」と条件をつけたが、それには訳がある。相手と立った状態で話を聞く時は、いくらノートを出していても、半分に畳んだ状態でなければ安定せずに字を素早く書くことができない。こういう時は、ノートを半分に畳んだ状態で、上の方に相手の言葉を書き、下の方にそれ以外の情報をメモするようにする。
いずれにせよ、重要なのは、小ストーリーを構築していくためのノート術、そして書籍としてまとめるためのノート術である点だ。人によって適した方法は違うが、一つの参考にしていただけたらと思う。 このノート術からダイレクトに説得力のある文章を構成していくコツは『本を書く技術』を参照してほしい。
石井 光太 :作家