プロ作家が取材で実践する「本を書くための」ノート術を公開。取材で「ICレコーダー」をあえて使わず、手書きにこだわる理由とは?
だが、ICレコーダーに頼っていると、無駄な安心感が生まれ、漠然とインタビューを行ってしまう。発言の真意がわからなくても、後で聞き返せばいいやと考えて放置したり、本の構成まで考えずに用意した質問を機械的にしたりする。これではインタビューを通して事実の核心に迫っていくことはできない。 ■緊張感こそがインタビューの質を上げる その点、手書きであれば、自然と頭をフル回転させて神経を研ぎ澄まし、相手の話のどこに意外性があるのか、何を深掘りすべきなのか、どのように活字にするかを考えるようになる。私は、その緊張感こそがインタビューの質を上げると思っている。
4は、ノートには取材相手の頭脳をも活性化させる作用があるということだ。 目の前にノートがあり、書き手のメモを見ていると、相手はその文字からいろんなことを考える。「あ、今こういう表現をしましたけど、こうかも」とか「このメモで思い出しましたけど、こういうことがありました」といったことが頻繁に起こるのだ。 相手は話した言葉をその場で文字化されれば、それを土台にして新たなことを考える。相手の非を明らかにする取材などでは、必ずしもすべて見せる必要はないが、内容によっては意図的にノートを相手の目につくところに広げて、インタビューをすることが有効に働くのだ。
このように、私は手書きにはいくつものメリットがあると実感している。したがって、たとえICレコーダーで録音をしている時も、私は手書きによって得られる特有の緊張感を維持するため、それを聞き返すのは本の原稿をすべて書き終えた後にすると決めている。あくまでリスク管理や、最終段階での事実確認として使用しているのだ。 ■私的ノート術 ノートに取材内容を書き留める際に、本の構成のイメージまで作り上げるべきと述べたが、一体どのようにしているのか。
カフェや会議室など、テーブルを挟んでインタビューを行う時、おおよそ私は以下の図のようなスタイルでノートを取るようにしている。要点を簡単に説明したい。 〇ポイント1 ノートは見開き1ページずつ使うことが多い。主に左側のページに取材で聞いたことを書き記し、右側には、それ以外の情報(相手の表情、違和感、取材場所の描写)などをメモする。 上の空欄には、話を聞いているうちに思い浮かんだ次の質問や疑問を書き留めておく。