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『卒業白書』トム・クルーズの光り輝く傑作は、ベルトルッチの『暗殺の森』を意識して作られた!?

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CINEMORE

『タップス』から『アウトサイダー』を経て

 長い歴史を持つ陸軍幼年士官学校が廃校になることに反発し、篭城する生徒たちの運命を描いた映画『タップス』(81)。そのリハーサル中に、ハロルド・ベッカー監督の目に留まった俳優がいた。その俳優が醸し出す士官候補生然とした振る舞いに感銘を受けたのだ。そこで、ベッカーは当初は集団の1人として起用するはずだった彼に、士官候補生デヴィッド・ショーン役を与える。  撮影現場でその俳優の存在に注目していたのは監督だけではなかった。同作で士官候補生の一人アレックス・ドワイヤーを演じたショーン・ペンは、次に出演した『初体験/リッジモント・ハイ』(82)の監督エイミー・ヘッカリングに、「『タップス』の現場に凄い奴がいた」と興奮気味に伝えている。  凄い奴とは、言うまでもなくトム・クルーズのことだ。『タップス』のクライマックスで、狂ったように銃を乱射する彼の圧巻の熱演は、観客の記憶にトム・クルーズという名前とその風貌を強く刻みつけることになる。  それから約2年後、クルーズは『アウトサイダー』(83)のオーディションに臨んでいた。その時の印象を監督のフランシス・フォード・コッポラは語る。「生命力に溢れる瞳の輝きは尋常ではなかった」と。  こうして、マット・ディロン、C・トーマス・ハウエル、エミリオ・エステベスたちと共に、若者集団”ブラットパック”の仲間入りを果たしたクルーズだったが、コッポラ作品への参加はそれが最後になる。彼が次に選んだのは、『アウトサイダー』の撮影中にこっそり台本を読み合わせていた(*)という『卒業白書』(83)である。 *共演のダイアン・レイン談。

1983年を代表するスリーパーヒット

 1983年8月5日、全米で公開された『卒業白書』は、620万ドルの製作費に対して約10倍にあたる6,350万ドルの興収を弾き出し、その夏のスリーパー(予想外)ヒットとなる。つまり、トム・クルーズは映画界にデビューしてからたった2年で、それも初の主演映画で、スターとしての地位を早々に確立したわけだ。当時まだ21歳。『トップガン』(86)より3年も前のことだ。  アメリカ、イリノイ州で最も裕福な街として知られるシカゴのグレンコー。そこに住む高校生のジョエルが、両親の留守中に自宅で売春パーティを開いて大儲けする。ジャンルとしてはいわゆるセックス・コメディだが、そこに大きな付加価値を付けたのが、監督ポール・ブリックマンの洗練されたダークなタッチだ。  レイバンのサングラスをかけてタバコを吹かすジョエルが、日頃悩まされている悪夢について話し始める。それは、自転車に乗ったジョエルが隣人宅に侵入すると、シャワールームでは美女が湯気の中に佇んでいて、ジョエルは彼女に促されてシャワールームに足を踏み入れるのだが、湯気の先には試験真っ只中の高校の教室が広がっているという悪夢である。  この冒頭のシーンから、トム・クルーズの独特の甘い語り口がエロチックなモノローグで、物語は展開してゆく。背後では、ドイツのエレクトロニック・バンド、タンジェリン・ドリームの電子サウンドが小刻みに流れ、見る者の視覚と聴覚を同時に刺激し続ける。そして、観客はジョエルの悪夢とも現実ともつかない奇妙な出来事を目撃しながら、ほぼ常時、絶頂一歩手前のもどかしいような快感を、持続して味わうことになるのだ。

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