Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

角銅真実、寺尾紗穂、菅野みち子......聴き手のイマジネーションを膨らませる、女性シンガーたちの“親密な歌”

配信

リアルサウンド

寺尾紗穂:ノスタルジックかつ揺るぎのない普遍性

 来年デビュー15周年を迎える寺尾紗穂は、シンガーソングライターであると同時に『原発労働者』などの著作を上梓した文筆家でもある。ミュージック・マガジンでは『寺尾紗穂の戦前音楽探訪』という連載をしており、2016年には日本各地のわたべうたを歌った『わたしの好きなわらべうた』というアルバムもリリースしている。いわば、温故知新を地で行くミュージシャンとも受け止められるだろう。  確かに、寺尾の音楽には童謡や唱歌のような素朴でシンプルな曲が多く、ノスタルジーを感じさせる瞬間も多々あるのだが、一方、サウンドメイキングはコンテンポラリーで先鋭的ですらある。『わたしの好きなわらべうた』も単なる懐古趣味ではなく、寺尾ならではの和音のあてはめ方や創意工夫に満ちたアレンジがなされている。  そんな寺尾の最新作『北へ向かう』は、寺尾と「冬にわかれて」というユニットを組んでいるあだち麗三郎や伊賀航を筆頭に、マヒトゥ・ザ・ピーポー、キセル、U-zhaanなど多くのミュージシャンが参加。これまでの活動で信頼を培ってきた彼らとの緊密な連携によって、鮮烈なサウンドを獲得している。また、歌詞の面では相変わらず情景描写が巧み。「北へ向かう」は寺尾の父が亡くなった日に車窓から見た風景を綴った極私的な歌詞だが、そんな背景を知らずに聴いても、車窓から見た曇り空がありありと目に浮かぶ。この曲に限らず、寺尾の曲は個人的なことを歌っていても、そこに揺るがない普遍性がある。これは彼女の強みだろう。  サウンド面では、蓮沼執太がアレンジした「やくらい行き」はボン・イヴェールを想起させるし、「君は私の友達」はミニマルなピアノがどこかスティーヴ・ライヒのよう。おそらく本人は意識してないと思うが、そうした想像を喚起するという点においても、彼女の音楽がポップミュージックとしていかに懐が深いことが分かる。

菅野みち子:初のソロ作に見える多彩さ

 最後に、秘密のミーニーズのボーカリスト、菅野みち子のソロアルバム『銀杏並木』について。秘密のミーニーズの音楽性は、Grateful Dead的な(あるいはジャム・バンド的な)長尺のソロが展開される、サイケデリック・ロック色が強いもの。筆者は彼らのアルバムを愛聴していたので、ソロになって「どう出るか?」とやや構えて聴いたのだが、こちらはよりナチュラルでオーセンティックなサウンドでまとめられている。資料にはキャロル・キングやジョニ・ミッチェル、カーラ・ボノフの名前が引き合いに出されているが、本人はCHARA、安藤裕子、原田知世、クラムボン、大貫妙子といったシンガーを愛聴しているとのこと。 『銀杏並木』は、そうした彼女のリスナーとしての幅広さがそのまま曲調の多彩さに繋がっている、という感じだ。そして、「走るあなたの光」のようなカントリー・ロック調の曲を聴いて連想したのが、フリーボがインディ時代にリリースした『すきまから』である。喫茶ロック界隈に括られたりもした作品だが、菅野の瑞々しいヴォーカルはフリーボの吉田奈邦子に近いものがあるように思う。  また、サウンド的にはフリーボの面々が愛聴していた、アメリカのルーツロックやオルタナカントリーと称された一群にも通じる面もある。具体的には、ルシンダ・ウィリアムスやエミルー・ハリスといった大御所に通じるスケールの大きさと深いポテンシャルを秘めている。そう思ったのだった。まだこれが初ソロアルバムなので未知数な部分もあるが、逆にのびしろはいくらでもあるわけで、今後の活動にも期待したい。  彼女たちの音楽性をひと括りにはできないが、いずれも聴き手との距離の近さや親密さを宿しているところは共通項だろう。また、聴き手がイマジネーションを膨らませられる余白や余地、隙間が設けられている、というところも。あるいは、内省的でパーソナルな表現でありながら、多くの人に開かれている、というのも通底していると要素と言える。  角銅真実は以前筆者がインタビューした際、「投げかけた音楽が遠くの知らない人に届いて、その人の中で変容していくような音楽ができればいい」と話していた。三者のアルバムから聴こえてくる音楽から何を受け取るか? 彼女たちの発する静かな問いかけに、耳を傾けてみてはいかがだろうか。

土佐有明

【関連記事】