カーオブザイヤーに「売れ筋でない車」が選ばれた理由、選考委員を経験した筆者が考える“賞の意義”とは
例えば、世界的にBEVの浸透が大減速し、現実的な解としてHEVがむしろ“売れ筋”となっている中で、いずれの受賞車もそれぞれのHEV仕様を売りにしている。 また、クラウン(セダン)は、BEVでなく、あえて燃料電池車(FCEV)の仕様を設定しているのも特徴的であり、多様化する電動化の潮流を表しているといえるだろう。 一方で、確かにそれぞれのカーオブザイヤー受賞車の選考には納得できるもので賞ごとに特徴もあるのだが、実際の新車市場では、このカーオブザイヤー受賞車が実は“売れ筋“とはいえない側面もある。 12月5日に日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)が発表した11月のブランド別販売ランキングを見ると、これを裏付けるものとなった。 自販連の登録車と全軽自協の軽新車届出の11月新車総市場は、1位トヨタ「ヤリス」、2位ホンダ「N-BOX」、3位トヨタ「カローラ」、4位スズキ「スペーシア」、5位ダイハツ「タント」、6位トヨタ「プリウス」、7位トヨタ「シエンタ」、8位トヨタ「アルファード」、9位日産「ノート」、10位ホンダ「フリード」だった。 このベスト10には、トヨタが5車種ランクインと圧倒している。また、新車全体の4割を占める軽自動車からは3車種がランク入りし、不祥事で大幅な販売減となっていたダイハツがタントでようやく上位に復活している。だが、その中で今回のカーオブザイヤー受賞車は、ホンダのフリードが辛うじて10位に滑り込んでいるだけだ。 つまり、市場でカーオブザイヤー受賞車が売れているかというとそうでもなく、受賞車と量販車(売れるクルマ)とは別の次元にあるのだ。
もちろん、「消費者から支持されていない売れ筋でない車が受賞するのがおかしい」というつもりは毛頭ない。むしろ、1980年にCOTYによる日本カー・オブ・ザ・イヤーが創設されて以来、一連の動向を見ると、かつて自動車メーカーが、自社の販売促進に活用するために審査員に接待攻勢をして受賞を狙うなど、カーオブザイヤーの本質が見失われているとの危惧が出た時期もあった。 その後、RJCによるカーオブザイヤー、さらに日本自動車殿堂と別のカーオブザイヤーが生まれ、自動車評論家や学術研究者などそれぞれの選考委員が感性や好みで選ぶことで、各賞での違いが生じるという方向へと変化していった。実は筆者も、昨年までRJCの選考委員を10年間ほど務めていた。今年は選考委員を退いたが、カーオブザイヤー選考の実情をそれなりに掌握している。 最近のカーオブザイヤー受賞車が「ベストセラーカー」とは限らないし、自動車メーカーによっては、カーオブザイヤーに意欲を示さない「アンチ派」メーカーすらも存在する。また、国内で圧倒的な販売シェアを確保するトヨタは、ここ数年の傾向としてカーオブザイヤーに複数車種がノミネートされることで、選考委員の票が分散することが多くなっている。 ここで注目したいのは、2年前の22年に日本独自の軽BEVとしてCOTY・RJC・日本自動車殿堂のカーオブザイヤー“三冠王”となった「日産サクラ/三菱自eKクロスEV」だ。三冠王という非常に注目を集めた受賞だったが、2年たった足元では販売が低迷し、11月新車販売台数では、サクラ・eKクロスEVのいずれも前年同月比30%以上の大幅減となっている。初の軽BEVという技術的にも意欲的な車であることが評価された一方、実際の市場はそこまで追いつかず、ギャップが一目瞭然となってしまった。