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激動の時代、芸術を支えに人間としての尊厳を保ち、前へと進む

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婦人公論.jp

◆芸術が暴く、過去と真実 『善き人のためのソナタ』(2006年)で、ドナースマルク監督は国民を監視する東ドイツと、その中で人間の魂を救う音楽の力を描いた。本作『ある画家の数奇な運命』では、第二次世界大戦下のドイツから始まり、幼い頃に目覚めた絵画への道を歩み、悲劇や挫折を経て、独自の表現方法を希求する若き画家を描く。 【写真】モデルは現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターだが、物語はフィクションだ ナチ政権下、1937年のドレスデン。少年クルトは叔母に連れられて「退廃芸術展」に出かける。ナチスが禁止する芸術に魅せられたように見つめる彼に、叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)は「私はこういう絵が好き」と囁いた。 成長したクルト(トム・シリング)は東ドイツのドレスデンで美術学校に通い、頭角を現すと、歴史博物館の壁画を任されるようになる。だが、ベルリンが壁で分断される直前に西ベルリンに脱出。西ドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミーに入学して、新たな作風を模索してゆく。 主人公のモデルは、1932年、ドレスデンに生まれた現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターだが、本作は伝記映画ではなくフィクションだ。 激動の時代に、クルトは図らずも皮肉な巡り合わせをする。統合失調症の叔母はナチ政権による安楽死政策の犠牲となるが、その決定を下していたのはナチ親衛隊のゼーバント教授(セバスチャン・コッホ)だった。 戦後、美術学校で叔母の面影があるエリー(パウラ・ベーア)と出会い恋に落ちるが、彼女の父こそ、ゼーバントだったのだ。3人ともそうした因縁があるとは知らずに、クルトとエリーは結婚する。そして西ドイツに亡命した。 ゼーバントは親衛隊員だったが、ソ連の将校を後ろ盾にして戦犯とはならずにすみ、東ドイツでも厚遇されていた。一方、クルトの父もナチ党員ではあったが、家族を守るために自分を偽り党員になったにすぎない。それなのに、東ドイツ社会でも満足な職に就けず、やがて自死する。 ゼーバントの狡猾な処世術と、時代に翻弄される実直で生真面目なクルトの父の絶望感。クルトの成長を追いながらも、社会の残酷さ、人間の本質が浮き彫りにされる。 そして、デュッセルドルフで前衛芸術に触れたクルトが芸術、記憶、生きる意味を思索し、自らの原点を掘り下げて生み出した絵画がゼーバントの過去を暴くくだりに息をのむ。彼は期せずして、目を逸らすことができない真実を明るみに出すのだ。 3時間を超える物語は、ナチ時代の優生思想による悲劇を盛り込み、東ドイツでの創作面の葛藤を経て、西ドイツで才能が開花する画家の半生を描く。芸術を支えに3つの異なる文化圏を通じて、人間としての尊厳を保ち、前へと進むクルトは清々しく美しい。 *** ある画家の数奇な運命監督・脚本/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演/トム・シリング、セバスチャン・コッホ、パウラ・ベーア、ザスキア・ローゼンダール、オリヴァー・マスッチほか 撮影/キャレブ・デシャネル 上映時間/3時間9分 ドイツ映画 ■10月2日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開 *** 韓国で130万部を突破したベストセラー小説の映画化。平凡な30代のジヨン(チョン・ユミ)は結婚・出産で会社を辞め、社会から切り離されていくような虚しさを抱えているが……。 夫役はコン・ユ。実力派2人の共演で、現代女性の生きにくさを等身大で描き、“ジヨンは私”という共感を誘う。 10月9日より新宿ピカデリーほかにて全国公開。 *** 82年生まれ、キム・ジヨン 監督:キム・ドヨン *** 音楽史に偉大な足跡を残すザ・バンド。メンバーのキーマンだったロビー・ロバートソンの案内で、誕生から1976年の解散ライブ「ラスト・ワルツ」に至るまでの旅路をたどるドキュメンタリー。 ボブ・ディランらへのインタビューから明かされるその唯一無二の存在感に、胸が熱くなる。 10月23日より角川シネマ有楽町ほかにて全国順次公開。 *** ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった 製作総指揮:マーティン・スコセッシ&ロン・ハワードほか ※公開予定は変更・延期・中止の可能性があります。最新の情報は、上映館にご確認ください (構成=池谷律代)

池谷律代

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