【マイルCS】「いつか来るチャンスのために」ナミュール代打騎乗の〝重圧〟を力に変えた藤岡康太
[GⅠマイルチャンピオンシップ=2023年11月19日(日曜)3歳上、京都競馬場・芝外1600メートル] 19日、京都競馬場で行われたGⅠマイルCSは、5番人気のナミュール(牝4・高野)が優勝。キャリア13戦目で初のビッグタイトルを手にした。鞍上の藤岡康太は、ムーアの落馬負傷により急きょの乗り替わり。計り知れないプレッシャーを乗り越えてつかんだ2度目のGⅠタイトルの裏には、ジョッキーとしてのひたむきな努力とプロフェッショナルな姿勢があった。 様々な重圧をはねのけての勝利だった。この日の京都2Rでムーアが落馬負傷し、急きょナミュールへの代打騎乗が決まった藤岡康。「これだけの馬を依頼していただいて、うれしさと同時にプレッシャーもありました」。競馬に騎乗したこともなければ、追い切りで感触を確かめたこともない。完全なテン乗りで、GⅠ上位人気馬へのスイッチは「今までに感じたことがない重圧」だったと振り返る。 それでも「いつか来るチャンスのために日々を積み重ねてきた」。腹をくくって前を向き、レースに向けてのイメージをゼロからつくり上げた。「先生や(前回騎乗した)モレイラ騎手から話をいただいて、〝いかに馬をリラックスして走らせるかが最後の伸びにつながる〟と。そこに気持ちを集中させました」 伸び上がるようなスタートで立ち遅れ、想定よりも後ろの位置取りになったが、鞍上は冷静だった。「馬のリズムとバランスを何よりも大事に」。人馬の呼吸を合わせて直線を向き、一気に末脚を爆発させた。
「この馬にタイトルを…」高野調教師の涙
09年NHKマイルC(ジョーカプチーノ)以来2度目のGⅠ勝利となった鞍上。感情が爆発してもおかしくない瞬間だったが、まず口から出たのは周囲への感謝と気遣いだった。「本当に馬がよく頑張ってくれました。急きょ乗り替わりになったムーア騎手のことを考えると手放しでは喜べない状態でしたが、ムーア騎手から〝おめでとう〟と言ってもらえて気持ちが楽になりました」 勝利を見届けた高野調教師の目には光るものが…。「2歳のGⅠの時から1番人気に推されていた馬で、この馬にGⅠタイトルをつけてあげられなければ調教師としてダメだと。そう自分にプレッシャーをかけていました」。通常、勝ち馬は検量室前で出迎えられるが、この日、トレーナーの姿は馬場の入場口に。「感情を抑えられませんでした。少しでも早く顔を見たくて、褒めてあげたくて…」。幾多の苦労を乗り越えてつかんだビッグタイトルに感無量の表情を浮かべた。「キャロットクラブの先輩にリスグラシューがいますが、後々、そのような成長曲線になればと思っていました。そこに近づく一歩を踏み出せたんじゃないかと」 もちろん同馬の今後も楽しみだが、やはりこの日の主役は藤岡康。ひたむきな努力とプロフェッショナルな姿勢が極限とも言えるプレッシャーを力に変えた。外国人ジョッキー全盛の中、日本人ジョッキーの意地を見た今年のマイルCSだった。
東スポ競馬編集部