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「非の打ちどころがない傑作」「戦争映画の理想形」 押井守が映画『1917 命をかけた伝令』を語る

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Book Bang

『機動警察パトレイバー the Movie』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を手掛ける映画監督・押井守が、SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』からアカデミー受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』までの50(+1)本の映画を語り尽くした書籍『押井守の映画50年50本』を刊行した。 その刊行を記念して、2019年の1本として、押井監督に『1917 命をかけた伝令』の魅力を語っていただいた。『パラサイト 半地下の家族』と賞レースを競い合った本作を押井監督はどう読み解いたのか? 

映画のスケール感を堪能した

──本作は、『007 スカイフォール』(12)のサム・メンデス監督作品です。 押井 彼の作品は、ほとんど見ているんじゃないかな。トム・ハンクスとポール・ニューマンが共演したマフィア映画『ロード・トゥ・パーディション』(02)も見たことがあるし、湾岸戦争の海兵隊員の日常を描いた『ジャーヘッド』(05)は、わりと好き。 ──長編1本目が『アメリカン・ビューティー』(99)です。 押井 イギリス人が『アメリカン・ビューティー』を撮ったというのは、驚きだね。アメリカの中流家庭の悲喜劇だからね。 ──サム・メンデスは、大学時代に『パリ、テキサス』(84)を見て、ドイツ出身のヴィム・ヴェンダースがアメリカを題材にした『パリ、テキサス』を撮ったという事実に感銘を受けたんだそうです。 押井 かつてのヴェンダースがそうであったように、サム・メンデスにもアメリカに対する想いと、ヨーロッパの伝統的な文化の引力に飲み込まれまいとする意志があるってことなんだろうね。ヨーロッパの文化に飲み込まれると、ヨーロッパ映画しか撮れなくなるからね。 ──サム・メンデスの発言を調べてみると、押井監督が今回の書籍の『パリ、テキサス』の回で語っているそのままでした。アメリカに対する憧れと距離感があって、ずっとアメリカを題材にした映画を撮りつづけていたのですが、いよいよ『007 スカイフィール』でイギリスに帰還して、『007 スペクター』(15)を経て、そして本作です。 押井 こうしてフィルモグラフィを並べてみると、ちゃんとしているんだなという印象だね。ちゃんと実績を重ねていって、『1917 命をかけた伝令』を撮ったんだと分かる。いきなりこれを撮るのは、無理だからね。長い塹壕を掘って造って、リハーサルを重ねて、大変な労力だよ。ハリウッドやイギリスの現場で映画監督に求められるのは、演出能力だからね。演出能力だけだと言ってもいい。 ──演出能力だけ、ですか?  押井 ハリウッドでは最終編集権を持たせてくれない場合が多いから、監督に求められているのは現場の演出能力だけなんだよ。だから、監督として演出能力があることを証明して、業界の信頼を得て、そしてようやくこういう映画を撮ることができるようになる。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで舞台演出家としてのキャリアがあったとはいえ、この映画は演出能力だけじゃないからね。映画としてのスケール感がある。ひさしぶりに映画のスケール感を堪能した。やっぱり戦争映画はこうじゃなくちゃな、と思ったよ。この映画は、ノルマンディー上陸の『史上最大の作戦』(62)のような壮大な戦争映画じゃなくて、やっていることは本当に小さなミッションなんだよ。1泊2日で伝令を戦線まで届けろってだけだからさ。だけど、小さなミッションだからこそ映画のスケール感を出すことに成功している。兵隊目線で戦場のスケール感を出していく。最初から最後まで本当に兵隊目線のままだからね。『史上最大の作戦』のような世界視線の映画では、こうはいかない。 ──世界視線?  押井 宇宙から眺めるように、すべての状況に対してフォーカスを合わせていく映画のことを「世界視線」と言うんだけど、世界視線の映画にすると、大作感を出すことはできても、戦場を描くことに徹することはできなくなる。この映画は、兵隊目線で戦場を描くことに徹することで、戦争映画としてのスケール感を出していくことに成功した。戦争映画をやるとなると、どうしても大作感を出したくなっちゃうんだけど、兵隊が置かれている状況と大作感は関係ないじゃん? こういう戦争映画を見てみたいと思っていたし、戦争映画のお手本のような作品になっている。 ──カットを割らない長回し映像は、いかがでしょう?  押井 長回しが話題になったけど、長回しのテクニックを見せびらかしたいから長回しをやっているわけではないんだよね。カットを割る必要がないから、長回しになったというだけ。世界視線の映画じゃないから、ということに尽きるよ。兵隊の目線でずっとやっているから、カットの切りようがないんだよ。

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