誰もが気づかないフリ。でも、もう無視できない菅首相という「緊急事態」
また、同じく審議されている感染症法改正では入院措置に応じない陽性者に罰金を科すことを検討している。これらはすべて国が個人の私権を制限できるようにする法改正だ。しかし、その私権制限について、国民が積極的に協力しなければ効果は上がらず感染拡大は止められない。 例えば、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相はコロナでの死者がゼロでもロックダウンに踏み切った。それができたのは官邸に向かう車中からもネット出演してロックダウンの必要性を説くなど、あらゆる手段と言葉で説明し、国民が納得したからだ。 その結果、同国では昨年11月18日から市中感染ゼロが続き、昨年末にはオークランドで数千人の市民によるノーマスクのカウントダウンイベントをやれるまでになった。事前収録のインタビューもまともにこなせない菅首相に、そんな芸当ができるとはとうてい思えない。 緊急事態を要請する動きは全国に広がっている。都市部の医療は事実上崩壊しており、欧米並みの陽性者や死者が出るリスクも否定できない。これほどの未曽有の危機を克服するには政治リーダーの国民とのコミュニケーション能力が不可欠である。 だが、『報ステ』を見てわかったのは、菅首相にその能力がまったくないということだ。憤りを感じるというよりも、むしろ哀れみさえ覚える痛々しいその姿。日本にとって、彼がリーダーであることこそ"緊急事態"なのではないだろうか。 ●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。古賀茂明の最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。