うつで働けなくなり知った「ボードゲームの魅力」…個人の属性も能力差も乗り越える
日本でのボードゲームの流行はまだ日が浅い分、ボウリングやカラオケなど従来の「遊び」と比べても、上手い/下手といった能力差が顕著になりにくい面があります。ボードゲームカフェが想定以上に定着したのには、そうした背景もあったと思います。 ■「属性を忘れる」体験が平等感を養う 小野 近日知って興味深かったのですが、ある地方都市のボードゲームカフェでは、お客さんどうしの「自己紹介は原則しない」というルールを設けているそうです。なぜかというと、お店で相席した初対面のメンバーでプレイする場合、自己紹介で相手の属性がわかると、自由に振る舞えなくなってしまうことがあるでしょう?
與那覇 確かに。もし相手が「博士号を持つ歴史学の専門家です。私に言わせると、このゲームは史実に忠実ではなく間違っています」とか名乗ってきたら、あまり楽しく遊べない気がしますね(苦笑)。 小野 純粋にゲームだけを楽しむためには、「自分は何者か」「普段どういうキャラか」みたいなことを一回忘れた方がいいので、あえて自己紹介はしない。別にルールとして設けていなくても、大都市のお店のゲーム会などでは、自ずとそういうマナーが生まれることもあるようです。名前をいちいち名乗らず、「緑のコマの方」のように呼びあうとか。
與那覇 2022年に刊行した『過剰可視化社会』(PHP新書)で使った用語でいうと、「逆カミングアウト」になりますね。自分が持っている属性──たとえば会社や大学の名前、家族構成といったものを名乗らずに、一切伏せる。それでも居合わせた他者からケアしてもらえることで、人は「俺は俺でいるだけでいいんだ。属性を失ったから無価値だなんてことは、ないんだ」と実感できるようになる。 重要なポイントは、まさにボードゲームと同じく、逆カミングアウトの効果は「対面」でないと十分に発揮できないことです。
小野 確かにSNSなどのオンラインでは、むしろプロフィール欄に自分の属性を全部書く「カミングアウト」の方が盛んですね。それを目印にして、似た属性の人どうしでつながりたいという欲求がある。もちろん「趣味:ボードゲーム」と書いておくからこそ見つけてもらえて、ネットで知りあったメンバーでゲーム会ができるといったよさもありますが。 與那覇 ええ。そうしたメリットは前提とした上でですが、コロナ禍でのオンラインへの依存もあって、ぼくはむしろ「過剰カミングアウト社会」の副作用の方が気になっているんです。