うつで働けなくなり知った「ボードゲームの魅力」…個人の属性も能力差も乗り越える
うつ状態になると、病気の前は雄弁で社交的だった人でも、会話ができなくなります。まして元々話すことに苦手意識があった人だと、より一層「自分には『面白い話』なんてできない」という気持ちに追い込まれてしまう。だからうつの人どうしで「大喜利大会をやろうよ」といきなり言われても、普通はうまくいきません。 ところが『見方』ではカードを出すだけでいいから、うつ状態の人どうしでも大喜利ができるんですね。そして普段は緘黙に近いくらい発言しない人が出したカードが、一番面白くて、全員の爆笑を誘ったりする。コミュニケーション力(コミュ力)に自信がなく悩んでいる人でも、ゲームの中ではトップのお笑い芸人のようになれるわけです。
■自己紹介は不要 小野 そうなんです。特に日本では近年のボードゲームの新作に、『見方』と同様の「コミュニケーション系」と呼ばれる作品が増えています。ボードの上で戦術を競いあうというより、プレイヤーどうしが会話で盛り上がるための「ネタ」を提供するゲームですね。 與那覇 他人とコミュニケートせずに社会で生きてゆくことはできませんが、コミュ力はしばしば「天性のもので、ない奴にはない。だからどうしようもない」のようにイメージされがちです。精神科医の斎藤環さんと議論すると、若い人がよく使う「コミュ障」(コミュニケーション障害)とは相手を全否定する用語で、そう呼ばれてしまう事態を誰もが恐れているという話になります(『心を病んだらいけないの?』新潮選書)。
しかし、歩行に障害がある人がいるなら「社会の側が『車いすとスロープ』を用意して、サポートしよう」とする発想は普通にありますよね。だったら仮にコミュ力が低い人がいたとしても、社会の側が「話し方の松葉杖」に相当する補助ツールを提供して、十分やっていけるはずじゃないか。そうしたヒントを『見方』からもらえたと思っています。 小野 大事な視点ですね。いまボードゲームがブームといっても、プレイに数時間かかる重量級のゲームを好むマニアは、急には増えません。新しく参入する人たちはむしろ「見た目がインスタで映える」「プレイ中の会話で笑える」といった、親睦を深めるためのきっかけを求めている。でも、そうしたライトなファンの分厚い層に支えられてこそ、やがてディープなマニアも育っていくわけです。