「リーマン・ショックにありがとう」 ── インベスターズクラウド古木大咲社長
徹底したIT効率化に向けた転機
2008年9月15日。29歳の誕生日の翌日にリーマン・ブラザーズが破綻し、会社の経営を直撃した。借り入れは何十億円もあるのに、需要は落ち込む。資金繰りは時間単位で管理した。同業者からは「辞めた方が気が楽になる」と破産を進められる。「死んだら迷惑になる」と1年間は眠れなかった。それでも08年度は約21億円を売り上げ、翌年もほぼ同額を売り上げた。 リーマン・ショックが同社の転機になった。「銀行は融資してくれなかったので、土地が買えませんでした。そこでインターネットによる土地と顧客とのマッチングをし、そのうえで建物を受注するというビジネスを考えました。土地が買えなかったので、それ以外に方法がなかったんです」。この苦肉の策が「在庫を持たない無借金経営」を実現する。 「なので、今は情報しか持ってないんですよ」。同社のビジネスはこうだ。福岡本社、東京本部、名古屋支店など全国の5拠点から地元の不動産業者に営業をかけ、物件情報をデータベースに登録する。顧客は登録された全国10都市の物件のなかからニーズに合った土地を選択。その上に建てるデザインをスキップフロアタイプやロフトタイプなど9種類のなかから選んで同社が施工する。引き渡し後、顧客はアパートオーナーとして家賃収入を得ることができる。 敏腕営業として活躍した経歴があるだけに、強力な営業を掛けているのかというと、そうではないらしい。「一般的な不動産の営業は気合しかありません。しかし、エンドユーザーに対する飛び込み営業や電話勧誘は実は非効率なのです。うちではそうした営業はまったくやりません。1人の営業マンが飛び込み営業で契約できる数は年間1.5棟と言われていますが、うちはインターネットだけで10棟を建てます」と胸を張る。 同社のサイトには、月間1000件の問い合わせがあるという。顧客からすると、対応が遅いことは大きな不安や不満になる。そこで徹底的な効率化を進めた。たとえば、住宅施工にかかる136項目のフローのどこで、誰が、どのくらいの間、そのフローを停滞させているかが一目で分かる社内システムを導入した。また、いつ誰が何をいつまでにしなければならないのかという業務タスクがパソコン上に表示される。停滞ポイントはマネジャーが指摘するだけでなく、停滞の原因が個人に起因するものでなければ、仕組みを改善する。 「これではまったくサボれないですね?」と水を向けると、「サボれないので残業がないのですよ」と明快な答えが返ってきた。従業員は約180人。「この先、営業社員は増やすつもりがありません。ITで解決します。年内にはアプリを提供する予定です。アプリのダウンロードをする方が資料請求をするよりもハードルが低いですよね?」 13年度の売上は138億円。これに対し、25年には年商1000億円を目指すという。「ふつうの不動産会社なら、これを達成するために1000人が必要だというでしょう。しかし、私たちは200人でこれをやります」。 14年8月6日には社名を「インベスターズ」から「インベスターズクラウド」に社名を変更した。「ITで、不動産をカッコよく。」するという同社のミッションを形にする決意の現れでもある。古木社長は「リーマン・ショックにありがとう、です。あれがなかったら、この会社の今はなかったですよ」と振り返った。