高いエンゲージメントに3つの副作用 効果的な対策は
人や組織をめぐるキーワードの一つとして、「エンゲージメント」に注目が集まっています。エンゲージメントとは、仕事に対して生き生きと没頭していることを意味します 。エンゲージメントを高めるのは良いことかと問われれば、ほとんどの人が「イエス」と答えるのではないでしょうか。実際、エンゲージメントが高いほど離職しにくかったり、パフォーマンスが高かったりすることが分かっています。しかし、薬に主作用(望む効果)があれば、副作用(望まぬ悪影響)もあるのと同じようにエンゲージメントにも副作用があります。本稿は学術研究のエビデンスをもとに、縄張り意識の高まり、働き過ぎ、ワークライフバランスが崩れるといったエンゲージメントの副作用を紹介します。さらに3つの副作用それぞれへの対策について解説します。
縄張り意識が強まり、知識を隠す恐れ
エンゲージメントが高い人は「当事者意識」を持って働いています。仕事を進める上で当事者意識は重要です。 例えば、当事者意識を持つ社員の方が、パフォーマンスが高い傾向があります。また、役割外のことであっても進んで行動することも明らかになっています。 一方で、当事者意識が「縄張り意識」を高めるリスクも知られています。仕事を自分ごとと捉えすぎた結果、自分の仕事に固執して排他的になってしまうのです。 縄張り意識が強くなると、仕事の中で得た知識を自分だけのものにして、周囲の人と共有しなくなります。さらに倫理的ではない行動をとるなどの問題にもつながることが検証されています。 エンゲージメントが当事者意識を促すのは良いものの、それが縄張り意識に変化すると、エンゲージメントの副作用が生まれてしまいます。
職場の目標を立てる
当事者意識が縄張り意識になるのを、どうすれば防ぐことができるのでしょうか。一つは、職場の目標を立ててメンバーとしっかり共有することです。 職場の目標を意識して働けば、社員の目線は自分の仕事に閉ざされることはありません。他のメンバーを含めた職場へと視野が広がります。 もう一つは、職場におけるメンバー間で仕事の重なりを増やすことです。一人ひとりが別々の仕事を独立して行うのではなく、ある人の仕事の一部が他の人の仕事につながるように、職場全体の仕事を設計します。 仕事が重なっていると、普段からメンバー同士のやりとりが自然に発生します。頻度の高いコミュニケーションはお互いに対する信頼を作り、知識を隠そうとするモチベーションを抑えるでしょう。 エンゲージメント高く働くと、時間がたつのを忘れるものです。「気づけば、もうこんな時間になっている」ということも起きるでしょう。 学術研究によれば、エンゲージメントと残業時間は相関することが分かっています。エンゲージメントが高い人ほど残業時間が長いという関係が実証されているのです。 残業時間が長い。この言葉だけを聞くと、ネガティブな印象を抱くかもしれません。しかし、「働かなければならない」という感覚で残業しているのではなく、本人が「働きたい」と思って残業しているのが、エンゲージメントが高い状態での残業の特徴です。 こうした状況が問題かどうかは、一概に判断できません。働く個人の視点で言えば、それぞれのキャリアの価値観と照らし合わせる必要があります。本人が仕事にのめり込みたいと意図しているのであれば、法律に違反しない限り、問題はないかもしれません。 とはいえ、キャリアの価値観はライフステージなどによって変わっていくものです。企業としては、社員がキャリアの価値観を検討する機会を定期的に提供すると良いでしょう。すなわち、キャリア開発の支援です。 他方で、企業の視点で言えば、働き方改革によって残業時間の抑制を進めていたり、人件費の高騰を避けたいと考えていたりすれば、エンゲージメントによる残業時間の増加は問題になります。 社員のエンゲージメントを下げない形で残業時間を抑えるには、エンゲージメントの高さによって生まれたエネルギーを、自社の仕事以外に向けることを支援するのがおすすめです。例えば、副業を解禁したり、自己啓発を補助したりするといった方法が考えられます。