26億円を使った三木谷氏ポドルスキ鮮烈デビューに「こんなの見たことない」
衝撃はまだ続編があった。同点とされた2分後の後半17分。右サイドからMF大森晃太郎があげたクロスにジャンプ一番、頭をヒットさせる。前方を183センチのDF河本裕之、後方を170センチのDF岩上祐三にはさまれていても、182センチの体はバランスを崩さない。勝ち越し弾に再びスタジアムが揺れた。 「すごくいいセンタリングだった。日本人選手は小柄なので、もしかしたらそれが自分にとってプラスに働いた部分もあったかもしれない。重要なゴールを決められたことは嬉しいけど、今日はまだまだシュートを打つチャンスがあった。これからはそういうチャンスをものにして、次に進んでいきたい」 ポドルスキがガラタサライ(トルコ)でプレーしていた昨秋からオファーを出し、一時は暗礁に乗り上げながらも、今年4月に移籍金260万ユーロ(約3億1000万円)、給与総額1900万ユーロ(約23億円)で2年半契約を結んだ。 今月6日に行われた来日&入団記者会見の席上。「こんな大物を獲得できるチャンスはない」と大金を投じての交渉へゴーサインを出した三木谷オーナーは、ポドルスキ獲得の意義をこう説明していた。 「日本が世界で第3位の経済大国ということを考えれば、Jリーグが国際的なリーグになって日本全体を盛り上げていく、世界の人がJリーグを観ているという状況を作り出せる。そうしたなかでJリーグが一団となって、夢のあるスーパースターを日本に連れて来る流れのきっかけになるのではないかと思っています」 日本円で26億円を超えるビッグマネーはヴィッセルだけでなく、日本サッカー界の未来に対しての先行投資でもあった。だからこそ、特に注目を集めるデビュー戦で、ポドルスキが自らの価値を証明した2ゴールが嬉しかったのだろう。今後のゴール量産を期待するように、三木谷オーナーはさらに言葉を紡いだ。 「まだ実戦というか、公式戦で1試合目ですし、これからますますチームメイトたちとの連携も深っていくでしょうから。Jリーグ全体が盛り上がっていけばいいんじゃないか、と思いますよね」 できるだけ多くの子どもたちに見に来てほしいという本人の思いから、アルディージャ戦ではポドルスキの愛称『ポルディ!』を専用窓口で元気よく伝えた小学生以下の子どもたちに、バックスタンド自由席入場券がプレゼントされる企画「ポルディからの招待状」が実施された。 日本の人気漫画『キャプテン翼』のファンだったことが高じて、3年ほど前に特注であしらった宝物のスパイクを履いて前半のピッチに立った。右足に主人公の大空翼、左足にライバルの日向小次郎のイラストがほどこされたスパイクに「いつかは履いてみたかったんだ」と、まるで子どものように笑う。 「最初の試合で2点を取れたし、大勢の子どもたちも来ている、これ以上はない雰囲気のなかでチームも3‐1で勝てた。言葉にできないくらい嬉しい。プレッシャーも当然あるが、それを力に変えていきたい。今日が最初の一歩。これからどんどん、どんどん前へ進んでいきたい」 日本を心から愛し、日本との不思議な縁にも導かれ、そして日本のサッカー界を変えてほしいという期待をも託されたポドルスキの挑戦。デビュー戦で刻んだ2ゴールは、新たな伝説の序章にすぎない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)