ソーシャル・メディアからは全力で逃げ出すべし!── シリコン・ヴァレーの良心、かく語りき【前編】
バーチャル・リアリティの父、またの名をジャロン・ラニア。テック界の伝説的存在が、テクノロジーがもたらす未来について、その不安と希望を語った。米版『GQ』8月号からの転載記事。 【写真を見る】
スクリーン上にはジャロン・ラニアと私とが隣どうし、陪審員よろしく並んでいた。バックグラウンドは会議室のようでもあり、ちょっと映画館のようでもあり。 マイクロソフトが出したこれはトゥギャザー・モードというそうで、ラニアが開発に関わった(リモートでライブをやるバンド仲間のためにもっとマシなツールとして彼が作ったものがトゥギャザー・モードの元になっている)。ヴァーチャル空間とはいえアイ・コンタクトもできて、それによる心理的効果として、従来のものを使った場合より多少ともリラックスできる。トゲトゲしさを感じる度合いが下がり、ヨリ楽しく使える。ことによると、NBA(いち早くトゥギャザー・モードを導入し、バスケットコート脇に設置したモニター画面にファンの姿を表示した)がいうところの「共同体感覚」をリモートで体験できなくもない。 コミュニケーションのツールを使うことを通じて人々が「ちょっとしたハッピー」を見つけられたらいいとラニアは考えている。「といっても、たいしたものではないですよ。このご時世、そんなのどだい無理ですから。でも、ちょっとしたことで気持ちって変わりますよね」 「で、このインタビューの目的は?」。ラニア本人から何度か訊ねられたことなので、少し説明を。まず、私は彼の人生に興味があった。たとえば交遊のあった人物でいうと、リチャード・ファインマンやフィリップ・グラスやジョゼフ・キャンベルやフォレスト・ウィテカーやスティーヴン・スピルバーグ。それとクリエイター(ヴィデオ・ゲームとかVRとか顔認識ソフトウェアとかを作ってきた)としての彼に。さらには思想家や本の著者としても。ラニアはこの10年間で4冊の著作をものしており、どれもが高い評価を受けている。テクノロジーがもたらす善と悪について書かれたそれらを読むと、シリコン・ヴァレー界隈でマトモなのは彼ただ1人ではないかとすら思えてくる。始まって以来この業界で生きてきたインサイダーとして、ラニアは同業者に向けて警告を発している。 未来はどうなるのか。その未来を、我々はどう生きたらいいのか。今回、私がラニアにいちばん訊きたかったのはそのことだった。2020年は未来へむけてのひとつの大きな分岐点になるような気がする。なぜそうなのかは、あえていうまでもないだろう。