パリッコ連載『今週のハマりメシ』第14回:とんかつ×インドカレーはありなのか?
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。 上石神井のミトミトカレー それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。 そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。 * * * 「カレーライスとは、カツののっていないカツカレーである」 これは、かの寺田克也先生の名言であり、僕の座右の銘でもある。 なにかにくじけそうになり、ふとこの言葉を思い出すたび僕は、「そうだよな。日々、小さなことに対して文句を言ったり、余裕なくテンパったりしながら過ごしているけど、自分の人生なんてまだ単なるカレーライスに過ぎない。カツカレーになってからが人生だろう」と、初心に帰る。「つべこべ言わんと、男ならひと"カツ"揚げてみろ!」と、文字通り喝を入れられた気分になるのだ。 なぜこの言葉がここまで自分に響くのだろうかといえば、それは僕がカツカレーを好きだからに他ならないだろう。「いちばん美味しいと思う食べ物はカツカレー」と、様々な場所でしつこいくらいに言い続けてきたから、そろそろシンプルに「しつこい」と思っている読者の方もおられるかもしれない。 ま、その執念のおかげか、たまにSNSなどを通じて有益なカツカレー情報が寄せられるのは、とてもありがたいことだ。先日もTwitterを通じて、僕の家からも遠くない上石神井という街にある「ミトミトカレー」という店に、おもしろいカツカレーがあると教えてもらった。なんでもそこのカツカレーは......いや、言葉で説明するより、行ってみたほうが早いか。 と、さっそくミトミトカレーへやって来た。 看板には「本格インドカレー専門店」とある。インドカレー屋でカツカレーなんて聞いたことないけど、本当にあるのかな......と近寄ってみると、表の看板のいちばん目立つ場所にいきなり載っていた。 なんと、見た目はもろに日本でおなじみの「ロースカツカレー」! 加えて、「カニクリームコロッケカレー」や「唐揚げカレー」などもある。これらはこの店では「Japaneseモダンカレー」と呼ばれ、なんとどれも、税込み690円というリーズナブルさ。 入店し、今日の僕には迷いはない。席に着くなり「ロースカツカレー」とオーダー。ぬかりなく生ビールも注文した。 サービスの「パパド」とともに、生ビールがやってきた。パパドとは、厳密にはもっと幅があるらしいがまぁ、「豆で作った極薄せんべい」って感じのもの。パリンパリンの食感、強めの塩気とスパイシーさ、体積がほとんどないゆえの腹にたまらなさ。どの項目もお通しとしてかなり理想的だと僕は思っていて、日本の居酒屋も、業務用の春雨サラダなんかを出すくらいならこっちを出してほしいと思う。 しばらくゆっくりめのペースで飲んでいると、いよいよカツカレーが到着。おぉ、これがインドと日本の文化が融合したひと皿か! 巨大な皿にたっぷりのサフランライス(たぶん)。その横に、赤褐色をしたインドカレーの海。ごはんの上には、どこからどう見ても「とんかつ」がのっていて、あまつさえソースまで回しかけてある! これはなかなか、他ではお目にかかれないビジュアルだな......。