地政学者が分析、コロナ収束後に世界の覇権国として躍り出るのは中国かアメリカか
新型コロナウイルスまん延の背後で「米中冷戦はすでに始まっている」と奥山先生。地球全体を俯瞰(ふかん)し、世界各国の動向を分析する「地政学」から、ポストコロナの国際情勢について解説してもらった。 【この記事の画像を見る】 ■ナンバーワンのアメリカに挑むナンバー2の中国 そもそも国際情勢というのは、ずっと昔から猿山の状態なんです。基本的にパワーの強いボス猿が、山の一番上にいて、そこにナンバー2の若頭がかみついていきますが、いつも若頭が蹴落とされる。そういう状態が、ここ500年続いています。現在のナンバーワンのボス猿はアメリカ合衆国(以下アメリカ)です。「ヘゲモニー」とも言いますが、アメリカが覇権を握っている状態にあります。そこに若頭である中国が挑みかかっている状況です。 他国をコントロールする戦略に「バランス・オブ・パワー」という考え方があります。これは国際政治でよく見られる、ナンバーワンの国が、ナンバー3と同盟関係を結んで協力しながら挟み込んで、ナンバー2の国の力をそぐ動きです。ナンバー2の勢力を均一化し、抵抗を不可能にする点が、まさに猿山のボスとその他の猿の力関係をあらわしています。現在、このナンバー3にいるのが日本。アメリカと協力して、中国に対抗しようという立ち位置にいます。
■次世代のテクノロジーをめぐり米中戦争は本格化 まずわれわれが現状認識として持っておかなければいけないのは、すでにアメリカと中国の冷戦は始まっているということ。 アメリカが、パワーを増大してきた中国を力で抑え込もうと本腰を入れたのが2016年頃。トランプ政権になる前後です。それを公式に述べたのが、18年にアメリカのシンクタンク、ハドソン研究所で行われたペンス副大統領の演説でした。中国に対して「お前ら、ええ加減にせえよ」と、はっきり言ったことがきっかけで、冷戦に突入しています。 ぶつかり合いのいちばんのテーマは「テクノロジー」です。5Gの機器やインフラを誰が握るのか、その生産は誰が管理するのか、そういった最先端のテクノロジーをめぐる戦いが、2019年からいよいよ本格化しました。 基本的に中国は、2000年代初頭から、それほど騒ぎを起こさずに、ずっと「平和的台頭」というものを実践してきました。しかし、08年のリーマンショックで、西洋のシステムがボロボロとくずれたときに「経済成長を支えるのは実はわが国では? 」と気づいてしまった。自分たちはナンバー2で、まだまだアメリカにかなわないと思っていたけれど、これなら超えられるんじゃないかという意識が芽生えてきたんです。それが08年から10年ぐらいの話ですね。 もしかしたら勝てるかも、と傲慢(ごうまん)になってきたところに、中国国民が「もっといけよ」とけしかけて、平和的台頭を振り払ったのが、10年頃です。19年になると中国は、とにかく攻めに入る態勢で、日本の外務省にあたる外交部に、イデオロギーの強い人間を配置し、外交を強化。アメリカがトランプ政権でバタバタしている今がチャンスだとばかりに、どんどん世界にケンカを売っているという状況になっています。