Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

役所はなぜデジタル化できないのか

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
JBpress

 (池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)  菅政権のテーマは「行政のデジタル化」。河野太郎行政改革担当相はさっそくハンコの原則廃止を打ち出したが、この問題はもう一つの「縦割り」というテーマと関係がある。新型コロナ問題では事務連絡がファックスで行われ、膨大な無駄が発生したが、いまだに是正できない。これは民間企業も同じだが、問題はテクノロジーではない。 ■ 日本は公務員が少なすぎる  こういう問題を論じるとき、よく「公務員の雇用を守るために合理化できない」という話があるが、公務員はこの20年、一貫して減っている。現在は国家公務員と地方公務員と特殊法人などを合計した公的部門の職員数は約333万人。これは人口1000人当たりでみると36.7万人で、先進国でも最少である。  問題は公務員が多すぎることではなく、少なすぎることである。公務員の事務量は毎年増えるのに要員は減らされるので、コア業務以外は民間に外注する。ほぼ同じ機能の独立行政委員会の職員数を比べても、アメリカのNRC(原子力規制委員会)の4000人に対して、日本の原子力規制委員会は1000人。これでは全国40基以上の原発は審査できないので、実務は民間にまかせ、そこに公務員やOBが天下る。  このように現場の業務を下請けに出すのと同じ系列下請け構造は、戦後の日本でずっと続いてきた企業システムである。公務員はいったん雇用すると解雇できないので、要員は最小限度に抑え、外注できる業務は外注するのだ。

 ところが多くの業務を民間に外注すると、公務員の機能が役所の中で完結しない。意思決定は公務員が行うが、現場の業務は民間がやるので、民間が反対すると業務が動かなくなる。これを経済学でホールドアップ問題と呼ぶ。  それを避けるために役所は民間との長期的関係を構築し、トップダウンで命令しない。民間も役所との信頼関係にもとづいてボトムアップで動くので、モチベーションは上がる。これが戦後の日本で構築されてきた日本的雇用慣行である。 ■ ITゼネコン構造は日本社会の構造  このように役所の業務を民間に丸投げする構造は、ITゼネコンと呼ばれる問題の原因になっている。ここでは富士通、日立製作所、NTTデータ、NECなどのITゼネコンと呼ばれるSI(システムインテグレーション)業者が役所の業務を独占し、自社のレガシーシステムで囲い込む。  ITゼネコン関係者によれば、「役所は2年で課長が交代するので、そのたびに当社の営業がレクチャーに行く。その時さりげなく当社にしかないシステムを売り込むのが営業の腕だ」という。「1円入札」のような手段で囲い込んだら、役所は逃げられなくなる。  このような構造はITに限らない。建設業のゼネコンも自社では住宅1戸も建てられない。すべての業務は系列の下請けがやる。「原子力ムラ」などといわれる原子力産業も同じだ。こういうムラ的な構造は、日本で伝統的に受け継がれてきたものだ。  それは在来型の製造業では高い効率性を発揮し、官民関係でも「安上がりの政府」で済むむという意味では効率的だが、意思決定の所在が曖昧なので、縦割りを打破しようとしても現場が拒否すると動かない。  ITゼネコン構造の原因は、発注する役所が無知で、業者のほうが専門知識のレベルが高いため、業者にぼったくられることにある。こういう現象は規制の虜として知られている。その対策は丸投げしている業務を役所が「内製化」することだ。  最近はCIO(最高情報責任者)を設置する役所も増えてきたが、最高責任者だけではファックスさえ変えられない。システム設計も役所ができないと抜本的なデジタル化はできないが、日本では無理だ。専門家が不要になっても解雇できないからだ。

【関連記事】