Netflix映画『Mank/マンク』がトランプ政権下で映画化された意味
映画ジャーナリストの立田敦子さんがいま注目すべき映画やドラマのトレンドをおすすめの最新公開作とともに斬る連載コラム「セレブbuzz」。今月は来年のオスカーの予備声も高い、フィンチャーの新作をピックアップ。
フィンチャーの6年ぶりの新作はNetflix制作
デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』(14年)以来6年ぶりの新作『Mank/マンク』。オーソン・ウェルズの名作『市民ケーン』(41年)の脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツ(通称マンク)が『市民ケーン』の脚本を執筆する過程がテーマだが、伝記映画というより、むしろ気骨ある彼の視線を通して、権力とメディア、そしてハリウッドの癒着や陰謀、欺瞞などを暴き出す社会派ドラマといっていいだろう。
物語は、マンクが新しい映画の脚本執筆のため別荘に缶詰になるところから始まる。依頼主は、ラジオ・ドラマで脚光を浴びた24歳の気鋭オーソン・ウェルズである。事故で脚を怪我をしたマンクはアシスタント(リリー・コリンズ)らに世話されながらベッドで執筆を開始する。脚本家としてすでに確固たる地位を築いている彼は酒浸りで、半ば世俗に疲れているように見える。だが、それでも気骨は失っていなかったようで、堕落した世間やハリウッドに向けた怒りを、脚本にぶつける込められている様子が、ゲイリー・オールドマンの見事な演技をもって鮮やかに描き出される。
ちなみに、映画『市民ケーン』は、新聞王ケーンの破滅的な生涯をジャーナリストが取材する関係者の証言によって描き出す。ケーンのモデルとなっているのは、当時の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストだ。財力とコネクションを武器にニューヨーク州の知事選に出馬するもの愛人スキャンダル暴かれて破れ、また愛人を一流歌手として売り出そうとするが失敗する。妻子に愛想をつかされたケーンは、NY郊外に“ザナドゥー城”と呼ばれる大邸宅を構えるが、やがて愛人も去っていくーー。アカデミー賞9部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。パンフォーカス、クローズアップ、ローアングルなど野心的な撮影法が高評価を呼び、今日では映画史におけるトップクラスの評価を受けている。