「アートとビジネス」を多角的に問う FUTURE VISION SUMMIT 2024レポート
安野貴博が語る、アートとビジネスの両立
美意識という言葉はもしかすると今後のひとつの重要なキーワードになるのかもしれない。初日のキーノートで登壇した安野貴博もまた、アートとビジネスの両立をテーマに語った。 特にイノベーションに近いビジネス領域では、問いの立て方がアートと似ていると安野はいう。そして、アート思考はビジネスへのプラスオンではなく、「個人のなかにアートとビジネスをもったほうが人生が豊かなのではないでしょうか」と来場者に語りかける。 クリエイティビティの本質は選択と決定。絵画で一本の線を引くという決断は、ビジネスでもアートでも行われる行為だと持論を展開する。その一方で、両者と決定的に異なるのは「なにかを具現化する」という点にある。逆にいえば、アーティストの思考に触れるには、絵画でも、小説でも、何かを具現化してみることだ。 「日記が文学になることもあります。ビジネスアイデアが美しいと評価するやりかたもあります。日々の生活のなかに、アートの一歩手前のものがある。具現化することが大事です」(安野) ■アートが北極星になり道を示す 「この会場にはビジネスに携わる方が多くいらしていると思いますが、“事業計画を作ってください”と言われて頭を抱えてしまった方も少なくないのではないでしょうか」 そう語りかけたのは、2日目のセッション「創造的越境 アーティストの思考から考えるビジネスの新地平とは?」に登壇した、ソニーグループの戸村朝子。「地政学、倫理、地球環境など、変動が大きすぎて1年後の事業計画を考えることがとても大変ですよね」と言葉を継ぎ、資本主義の外側にいてまったく違う行動原理で動くアーティストが示す、本質的な人類の姿が北極星となり道筋を示すのではと期待を込める。 そのために必要なことは「たくさんのメルティングポットをつくること」。アーティストたちが経済活動の外側で自由に問題提起を行い、創造性を発揮する場所だ。このイベントで作品を発表したNEW INC.や、アルス・エレクトロニカのような文化的プラットフォームのほか、この大丸有で展開される「有楽町アートアーバニズムYAU」もまたその一つ。 若いアーティストたちに都心のオフィスビルの一画を提供し、イノベーション創発のきっかけとしてアーティストと街の交流を企てるYAU。このプロジェクトを機に大丸有エリアに愛着が湧いたというアーティストたちによる街の文化の連続性、未来を受け継ぐ次世代へのバトンパスが確実に行われているという点でも、興味深いものだった。