楽天のPCR検査キットに専門医らから批判殺到 楽天の見解は?
楽天が新型コロナウイルスのPCR検査キットを法人向けに販売し始め、医療者らから厳しい批判を浴びている。 無症状の社員が、医師の診療も通さずに、自己採取で検体を取る方法で、通常、医療機関で行うPCR検査よりも精度は格段に低くなることが予想される。実際は陽性なのに「陰性」と出て安心した人が感染を拡大させたり、実際は陰性なのに「陽性」と出て医療機関を受診したりなど、医療機関の負担が増えることも懸念されている。BuzzFeed Japan Medicalは楽天や専門家を取材した。【BuzzFeed Japan Medical/岩永直子】
無症状の人が対象 検体は自己採取
この検査は、ジェネシスヘルスケア株式会社が開発し、楽天株式会社が4月20日から法人向けに販売しているものだ(定価は1万4900円)。 厚生労働省は風邪症状や発熱が続くなどの症状を受診相談の目安としているが、楽天の検査キットは、「特定の症状が出ていないものの不安を感じられる方」と無症状の人が対象。逆に厚労省の受診の目安に該当する人は受けられない。 このキットで検査を受ける人は、自分で長い綿棒を鼻の穴に差し入れて、鼻の奥のぬぐい液を採取し、それを回収して検査に回し、「新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が検出されるかどうか」を判断してもらう。結果は3日以内に出るという。 楽天は「本検査キットを用いたリスク判定は、いかなる意味でも診断や医行為を行うものではありません」と説明する。 結果をどう解釈して取り扱うかについては、「社会的状況も考慮しながら方針を決め、適切に対応いただくことが望まれます」と、法人に委ねている。
治療の最前線にいる感染症専門医も「推奨しません」
この検査について発表された直後から、SNSでは、医師らによる批判の声が上がっていた。 「精度の低い検査で陽性なのに陰性(偽陰性)と出たら、安心して行動し感染を広げかねない」 「(本当は感染していないのに陽性と出る)偽陽性となった人が医療機関を受診したら医療機関の混乱や負担増を招く」 「今日の陰性は明日の陰性を意味しない」 「自己採取では適切に検体が取れない」 などだ。 国立国際医療研究センターで感染者の治療に当たる感染症専門医の忽那賢志さんは「一般の方がこのPCR検査キットを使用することは推奨しません」とする記事も出して、利用を差し控えることを勧めた。 忽那さんは、感染者への接触歴や流行国への渡航歴がない無症状の人は感染している割合が低いため、検査すれば、偽陰性や偽陽性が多数出て混乱を招くことを指摘する。 自己採取では適切に検体が取れないとして「医療行為として手技に習熟した医療従事者が行うべき」とも訴え、さらに、偽陽性の人が改めて診断を受けるために医療機関を受診することで「かえって医療機関に負担がかかることになりかねません」と強く批判している。 政府の専門家会議の委員も務める釜萢敏・日本医師会常任理事も、4月22日に開かれた専門家会議の会見でこう懸念を表明した。 「検体採取は感染するリスクもありますし、確実に適正に検体が採取できるかどうかわからない。医行為に属するものではないと発売元は表明していますが、本来は医療の中でやるべきことなので、非常に危険を伴う」 「実際には陽性なのに陰性と出た人が、陰性ということを根拠に職場で働くと周りに広げる。体外診断用医薬品ということで、しっかり管理したものでないと国民に対して安心して提供できるものではないので、日本医師会として大きな懸念を抱いている。専門家会議でも懸念の意見がありました」