テレビ、2つの誤解 「ドラマの再放送」はちっとも儲からない 「TVer」は新たな収益の柱にはならない
TVerもあまり儲からない
再放送は儲からない分、局側は戦略的にうまく利用している。「踊る――」の再放送が、映画「室井慎次 敗れざる者」(10月11日公開)、同「室井慎次 生き続ける者」(11月15日公開)と連動していたのは説明するまでもない。格好のPRになった。 11月6日から始まった「ドクターX」の再放送も同じ。映画「劇場版ドクターX」(12月6日公開)のPRになる。 形態は異なるが、やはり戦略的と言われ続けているのが、同じテレ朝が2012年からやっている夕方の「相棒」(月~金曜午後3時50分)の再放送である。 「相棒」の再放送は異例とも言えるくらい高視聴率をマークし続けている。このため、後に続くニュース「スーパーJチャンネル 第1部」(午後4時48分)が高い視聴率を獲りやすい。 12月8日の「相棒」の再放送は個人2.8%(世帯5.6%)。これに対し、同じ時間帯の日テレ「news every.第1部」(月~金曜午後3時50分)は個人2.5%(世帯4.9%)、TBS「Nスタ 第0部」(同午後3時49分)は個人2.2%(世帯4.6%)、フジ「Live News イット! 第1部」(同午後3時45分)は個人1.3%(世帯4.4%)。「相棒」の再放送はニュース3番組に完勝した。よくあることだ。 この日の「相棒」の再放送の後に流されたテレ朝「スーパーJチャンネル第1部」の視聴率も個人3.4%(世帯6.7%)と高数値。時間帯がほぼ重なる「news every.第2部」(同午後4時45分)の個人3.9%(世帯7.2%)にはやや及ばなかったものの、同時間帯で2位。「スーパーJチャンネル第1部」は同時間帯で常にトップ争いを演じている。 再放送以外のことでも誤解が広まっている。TVerに関することだ。まるで民放の新たな収益の柱になったという情報が流されているが、これは誤り。 TVerのCM売上高は各局とも地上波のCMの20~30分の1程度に過ぎない。TVerの売上高はもともと少なかったので、右肩上がりで伸びているが、地上波のCMの売上高に近づいたり、逆転したりすることは構造上、あり得ない。 その訳は再放送が儲からない理由と似ている。TVerの番組の制作費を出しているのは地上波のスポンサーだからである。 地上波のスポンサーがプライム帯でネットタイムCM(番組の提供スポンサーが全国で流すCM)を出すと、30秒のものが26本で4000万円~3億円程度する。ここから制作費が出る。 同じく地上波のスポンサーが買う15秒のスポットCM(番組と番組の合間などに流れるCM)は1本当たり75万円~100万円以上。比較的安いようだが、1本単位では買えない。基本的に1週間以上での契約だから、合計数百万円~3000万円以上になる。 一方、TVerにCMを出すための最低費用は50~100万円程度。番組の制作費を負担していないのだから、当然である。だから大きくは儲からない。 そもそもTVerはやや過大評価されている嫌いがある。まず認知率はまだ72.5%にとどまっている。(15~69歳、2024年1月、マクロミル調べ)。誰もが使っているわけではない。 また、コネクテッドTV(ネット回線に接続されたテレビ)経由での番組の完再生率(番組が最後まで再生される率)は71%。パソコン、スマホを利用しての完再生率は約60%。(2023年12月発表、TVer調べ)。最後まで観ない人もかなりいる。 再生数ランキングも額面通りには受け取るわけにはない。まずTVerは世代によって利用率にかなりばらつきがある。また、視聴率が高い番組ほど再生数が少なめになるからだ。リアルタイムで観た人がTVerでまで観ることはあまり考えられないから、当然だ。 TVerは「見逃し無料配信動画」であり、その言葉の通り、主にその番組が観られなかった人のためにあるサービス。単純に観たい人が多い作品がランキングの上位になるNetflixやU-NEXTとは前提条件が違う。 再放送、TVerについて局側はもっと分かりやすく説明したほうが誤解を避けられるのではないか。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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