〈わしは兵など挙げん!〉煙に巻く頼朝の「生死を左右する恋」の行方【鎌倉殿の13人 満喫リポート】
ライターI(以下I): 伊東祐親(演・浅野和之)に睨まれた頼朝(演・大泉洋)が追い込まれました。 編集者A(以下A):歴史的結末を知っている我々から見れば、祐親は源氏や頼朝の貴種性を見誤ったということになるのでしょうが、この時は、まだ平家に力がありましたから、平家の威を借りて伊豆で大きな顔をしていた祐親としては、なかなか日和れませんよね。 I:不思議なのは、北条からすれば、頼朝の首を平家に差し出して恩を売るという選択肢もあったのに、なぜ頼朝についたのかです。劇中でも北条家の人間が伊東祐親を「じさま」と呼んでいるように、北条も三浦も祐親の女婿という身内なわけですし。 A:その辺りの北条家の思惑はよくわからないですね……。しかし、伊東と北条という土地の有力者の娘を時間差でたぶらかすことができた頼朝は、さすがという感じですね。 I:大庭景親(演・國村隼)とか山内首藤経俊(演・山口 馬木也)なる武士が登場しました。 A:景親が頼朝のことを「平相国の預かり人だから勝手に殺せない」とかばったり、山内首藤経俊が〈みな、佐殿が立ちあがるのを待っておるのです。この山内首藤経俊もしかり〉とのたまったり、含蓄ある場面でした。 I:坂東武士もそれぞれが、さまざまな思惑を抱えていたのでしょうね。 A:権力者の威を借る人間は、いつの世にもいるのですね。堤信遠(演・吉見一豊)という人物が〈わしは平相国より直々にこの伊豆権守を仰せつかっておる〉と。 I:権力はこういうところからも綻んでいくのですね。そういうことがよくわかりました。 A:堤のような人間に対する怒りはあったとしても、平家に忠誠を誓うか、流人の頼朝につくか――。この段階で頼朝につくとはなかなか明言できないですよね。 I:現代企業の広報が、既存の大新聞との付き合いのみ重要視して、新興のwebメディアを軽視するとか、そういうことですかね。時代の潮流を見誤るということでは。 A:言いたいことはなんとなくわかりますが……。さて、頼朝は俗に猜疑心の強い人物だったと伝えられています。なんといっても父義朝の最期を思えば、坂東武士らの発言をそのまま鵜呑みにはできなかったでしょう。 I:平治の乱で敗れた頼朝の父義朝は知多半島を支配する家人の長田忠致の屋敷に身を寄せます。しかし、恩賞目当ての長田に入浴中に殺害されたのですよね。 A:そうです。知多半島・美浜町の野間大坊(大御堂寺)には義朝の墓所もありますし、頼朝の念持仏と伝わる仏像もあります。頼朝からしてみれば、誰が本当の味方なのか、見定めなければならないという思いはあったと思います。 I:頼朝が〈わしは兵など挙げん。決めた。戦は苦手じゃ。この地でゆっくり過ごすことにした〉と発言するシーンがありました。煙に巻いて周囲を翻弄させている感じがしますが、頼朝流のサバイバルなんですね! A:本心はおいそれと明かさない。それが流人生活の心得なんでしょう。誰がほんとうの味方なのか、誰が敵なのか。見定めなければ、自分の命が危ない。だからこそ、がっちりした後ろ盾を得るために、伊東や北条という有力者の娘を狙ったのかもしれません。 I:だとしたら、したたかですよね。頼朝は。 A:それは坂東武士たちも同じことがいえると思います。平家と頼朝、どちらについた方が得なのか。とはいえ急いで下手に旗幟を鮮明にしたら足元を救われかねないですし。