テレビタレントは「職人意識」に向かう？
「人気資本主義」の上にあぐらをかく
前にこの欄で、現代の企業が、製品の品質よりアイドル・タレントやスポーツマンやキャラクターの人気に頼るのを「人気資本主義」と称した。テレビ、特に地上波はその中心となる牙城であるから、番組が視聴率に流されるのはやむをえないところもあるが、それが行き過ぎてマンネリ化すれば、日本文化本来の「芸」をダメにしかねない。アイドル・タレントも芸人たちも、そのことに気づきはじめたのではないか。人気や収入だけではなく、芸を極めることに本気になる傾向が出ていると思うのは期待しすぎだろうか。 テレビ文化の創成期には、永六輔、青島幸男、前田武彦、大橋巨泉など、きわだった創造力のある人たちが、芝居や映画や寄席とは異なる新しいジャンルの開拓に情熱を燃やした。創作者としての魂があった。戦後急速に発達した分野であるから、彼らはみな昭和一桁生まれという近い年齢層で、第一線を退く時期も近かった。しかしそのあとは、テレビ局もプロダクションも大企業化し、番組制作にかかわる人々もサラリーマン化し、人気資本主義の上にあぐらをかき、創成期のエネルギーが失われていったのではないか。 テレビ創成期に活躍したタレントで元東京都知事の青島幸男さん（写真：Natsuki Sakai/アフロ）
若者への影響
この国の「ものづくり文化」も、少し前に書いた「マンガ・アニメ文化」も、国民ひとりひとりの職人意識と才能と努力によるものだ。それは日本文化の生命線である。 テレビに出るタレントや芸人たちが、俳優でも、歌手でも、ダンサーでも、アナウンサーでも、司会者でも、漫才師でも、落語家でも、本来の「芸」に精進するならば、ハッキリした目標をもちにくい今の日本の若者に大きな影響を与えるだろう。政治家や評論家が声高に教育改革を唱えることより、よほど効果があるだろう。 少し前に、団塊の世代には、戦後復興と高度成長の時代の「スポ根」という「時代道徳」があったと書いた。そういった価値観が力を失った今日、温室効果ガスの問題で大量生産による文明の発展という価値観に疑問符がつく今日、日本的な「職人（プロ）意識」という価値観は、国際社会においてもひときわ輝くような気がする。 近代社会は働く人間を「労働者」と位置づけるが、そこに「職人意識」というものの存在を見落とす契機がある。長い間われわれはそういう曇った目でものを見てきた。厚労省も、経産省も、そういう意識で行政をやってきたのだ。今後、日本を再生させる鍵となるのは、財政出動による景気浮揚策などではなく、一般国民の仕事人としての意識ではないか。 令和2年には、地上波と列島に、日本文化の核心としての職人意識が復活することを期待したい。
