テレビタレントは「職人意識」に向かう？
「ザ・マンザイ」の真剣味
もう一つ考えさせられたのは「ザ・マンザイ」という、ベテランから若手までの漫才師が総出で競う番組である。少し前までは得点をつけて王者を決めていたのだが、今はビートたけしがちょっとコメントし、たけし賞というものを出すだけで、点数はつけていない。漫才の面白さは聴く人によっても異なるだろうから、それもひとつの見識だろう。 それでも、日ごろ冠番組を持っていたり、バラエティ番組やクイズ番組で活躍する超人気者が、新人並みの緊張感をもって本気で演じている。つまり彼らは「人気」だけでなく、漫才という本来の芸に打ち込む職人意識を捨てていないのだ。 それにしても、若手もベテランもたけしが聴いているというだけで本気になるという存在感は何だろう。映画監督としても世界的な評価を受け、俳優でもあり、絵も、文も、上手い。恐るべき才能であるが、本人は浅草を芸の出発点とする漫才師という意識を基本にしているようだ。 かつて社会的にはどうかと思われるような事件を起こし、最近もこれまでの事務所の問題と愛人の問題を重ねて報じられ晩節を汚すのかとも思われたが、そういった社会性の問題があまり傷にならない不思議な人格である。マルチタレントといえばマルチだが、芸術家ぶらず、すべてに職人意識をもって当たっているところがそうさせるのだろう。
BSとラジオは「廊下の大衆」
少し前、テレビ局の人に「BSは年寄りしか見ない」と言われてショックだった。僕はBS放送のファンだし、実際に年寄りだからだ。 たしかに、高齢者向けの通販番組、古いドラマの再放送、昭和時代の歌謡曲番組などが多く、コマーシャルも高齢者向けの健康食品と器具など。しかし一方で、スポーツ番組、スタンダードとなる映画、自然や街並み紹介を含めて質の高いドキュメンタリーも多い。さらに最近は報道番組が増えており、かなり突っ込んだ内容で、専門家の発言を重視している。 前にこの欄で、テレビの前にいるのは「茶の間の大衆」であり、インターネットに参加するのは「個室の大衆」であると書いた。この場合、テレビとは地上波のことで、茶の間には老若男女が混在しているので、どの層にも受け入れられるためのタテマエを破ることできず、突っ込んだ報道ができない。逆にインターネットでは、個人の欲望とホンネがそのまま噴出するので、社会的な力となる世論を形成しにくい。 BSはその間にある。いわば茶の間から個室に向かう廊下にいるようなものだ。ラジオもこれに似ている。BSとラジオは「廊下の大衆」を相手にしている。それは、何かをしながらでもつい引き込まれるような吸引力があるということだ。 要するにメディアの多様化時代である。それでも「地上波の視聴率的強さ」があることは、「みんなが見るものを見る」という日本社会の特性として、認識すべき事実であるが、その番組がマンネリ化していると感じるのは僕だけではないだろう。
