何の意味が?「戦車に金網」取り付けるワケ 撃ち抜かれて終わり…とは限らない命守る工夫だった!
運動エネルギー弾ではなく化学エネルギー弾をストップ
激戦が続くウクライナ紛争ですが、2022年の開戦当初は主にロシア軍が、その後は両軍ともに戦車を始めとしたAFV(装甲戦闘車両)に金網を付けているケースが見られます。ぶ厚い鉄板ではなく、スケスケの細い針金からなる金網で、何の効果が得られるのか、一見すると疑問に思えます。 【もはや“檻”!?】巨大な金網の「箱」と化したウクライナ軍自走砲ほか(写真) 実はこれ、その不細工な見た目とは裏腹に、コスパ良く戦車やAFVの防御力を向上させられるシロモノです。いったい、どういうことなのでしょうか。 戦車の装甲に孔を穿(うが)つ弾には、運動エネルギー弾と化学エネルギー弾の2種類があります。前者は、徹甲弾に代表される「重くて硬い弾」を高速で発射して、文字通り運動エネルギーで装甲を突き破るものです。 重い弾を高速で撃ちだすので、その「発射装置」となる砲は頑丈でなければならず、なおかつ反動も大きくなるので、その衝撃を吸収するための機構が必要になります。結果、威力を追い求めれば砲およびその砲架は大きく重くなるため、戦車など大型の戦闘車両で多用されるのがメインの砲です。 一方、化学エネルギー弾とは第2次世界大戦で多用されるようになった弾です。弾に充填された炸薬(火薬)の爆発で装甲に孔を穿つのが特徴で、化学エネルギーで威力の強弱が決まるので、そのように称されます。 その代表が成形炸薬弾、いわゆる「HEAT弾」と呼ばれるもの。HEATはHigh Explosive Anti-Tankの略です。前出した運動エネルギー弾のように、弾の大きさや飛翔速度、射程の遠近で貫徹力の強弱が出ることはなく、弾そのものの爆発力が装甲貫徹力に直結するので、弾自体の速度が速かろうが遅かろうが、充填された炸薬量に見合った厚さの装甲を貫通します。 前出した装甲の金網は、この成形炸薬弾から、コスパよく車体を守ってくれるのです。どういうことなのでしょうか。
個人で戦車を倒せるようになったのが契機
化学エネルギー弾は高速性が求められないので、発射装置も大型化する必要がないというメリットがあります。そのため、成形炸薬弾の登場は、小型軽量の小銃てき弾やバズーカ(対戦車ロケット発射機)などといった、歩兵携行対戦車兵器の発達を促しました。 ゆえに、ウクライナ紛争で知られるようになった個人携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や、肩撃ち式のてき弾発射器(正確にはロケット発射機ではなくてき弾発射無反動砲)「RPG-7」などは、この成型炸薬弾を用いる構造です。 しかし成形炸薬弾には大きな弱点がふたつあります。 ひとつは、浅い角度で装甲板に命中すると、起爆しても装甲貫徹力が大きく削がれる点。そしてもうひとつが、装甲板に対して適正な距離で成形炸薬が起爆しないと、装甲貫徹力がほぼ失われてしまう点です。これを「スタンド・オフ」と称し、「スタンド・オフを狂わせて装甲貫徹力を減衰させる」というように用いられます。 このうち、特に後者の事実を成形炸薬弾の防御に利用しようと、第2次世界大戦中のドイツ軍は「シュルツェン(ドイツ語で「エプロン」の意)」と呼ばれた薄い金属板を、車体から一定の間隔をとって砲塔周りや車体側面などに取り付けました。 なお、シュルツェンは、単に成型炸薬弾に対する防御だけでなく、当時ソ連軍が多用していた対戦車ライフル弾の威力を減衰させたり、本体の装甲に比べて脆弱な視察口や可動部などを狙いにくくさせたりする効果も併せ持っていました。 しかしそのうち、成型炸薬弾を防ぐには金属板でなくてもよいとなります。なぜなら、前述のように車体や砲塔と適正な距離さえ保っていればスタンド・オフが狂って無力化できるとわかったからです。 そこで、鋼板を節約する観点からも、シュルツェンは金網製となりました。たとえ金網でも、これに当たった成形炸薬弾はスタンド・オフを狂わされた状態で起爆。その結果、肝心の車体そのものの装甲は貫徹されずに済みます。