定年延長で大量発生?…職場によくいる「残念なシニア」3類型
お仕事は、定時まで時間を潰すこと…「無力系」シニア
<C. 無力系の残念なシニア> 残念なシニアの3つ目の系統である「無力系」には、そもそも職務遂行に必要な知識や能力が足りない、または知識や能力があっても引き出せないという特徴があります。 まず、C-1の「ルーティンシニア」は、就労年数は長いものの、誰でも担える簡単な業務しか経験しておらず、キャリアの核となるような職業的専門性を有していないタイプです。サポート的な事務職の社員コースを歩んできた人だけでなく、総合職であってもこれに当てはまる人材が日本企業では多々見受けられます。 C-2の「暗黙知シニア」は、本人に熟達した知識や能力があったとしても、それを言葉で表現できない、または表現しようとしないシニアです。本来、シニアには高度な技術・技能の次世代への伝承が期待されるのですが、暗黙知シニアの存在によって、その断絶が生じてしまう可能性があります。それどころか、言葉で表さないことを誇りにし、「背中を見て学べ」と若手に言い放つことすらある始末です。 最後はC-3の「抜け殻シニア」です。年齢を理由にチャレンジすることから逃げ、覇気がなく、与えられた職務だけをこなそうとします。A-1からC-2までのシニアは、うまく付き合うことでやる気や能力を引き出すことも可能ですが、C-3の抜け殻シニアはそれすら難しい状態になってしまっています。自分が担うべき職務の幅をなるべく狭くしようとするので、周囲の同僚がその矮小化分をカバーしなければなりません。 無力系の残念なシニアがいる職場においては、周囲がその存在を必要悪として受け入れてしまい、シニアが十分な役割を担っていないことに職場全体が見て見ぬふりをしてしまいがちです。そのため、このタイプのシニアは就業時間を目立たぬご隠居のように悠々自適に過ごし、時間を潰すためにネットサーフィンにいそしんだり、社内のあちこちを散歩して回ったりしています。
「シニアの処遇」こそ「残念なシニア」創出の温床
ここまで3系統/9タイプの残念なシニアを簡単に紹介しました。皆さんの企業にもこれらに当てはまるシニアがいるのではないでしょうか。このような残念なシニアが数多く生み出されている理由は様々ありますが、主たる理由はシニア本人ではなく会社側にあることを認識する必要があります。つまり、日本企業のシニアに対する処遇の実態が、残念なシニア創出の温床になっているのです。そのあたりを続いて確認していきましょう。 図表2は、2018年現在のシニア雇用に関する厚生労働省の調査結果です。日本企業の約8割が継続雇用制度、つまり定年後再雇用でシニアを処遇しており、定年の引上げ(=定年延長)や定年制の廃止の合計は2割程度に止まっています。日本企業におけるシニア雇用は定年後再雇用が主流であり、従業員数301人以上に限定すると約9割に上ります。 また、多くの企業では、本人が担う職務が変わっていなくとも、年収水準が60歳前の7割以下となり、大企業では6割以下になるのが通常です。年収水準が4割以下になってしまう企業も珍しくありません。これまでと同じ仕事を続けているのに、60歳になったとたんに給与が半分になってしまうのであれば、定年後再雇用者がやる気をなくしてしまうのは当然の結果と言えるでしょう。 また、定年後再雇用者を60歳までの社員と同様に等級格付けして処遇している企業は2割未満というデータがあり、人事評価も約半分の企業で実施されていないようです。それらの帰結として毎年の昇給が全くない企業が7割以上あり、定年後再雇用者の多くは、頑張っても頑張らなくても処遇が変わらない状況にあるのです。 これらの状況から言えるのは、多くの日本企業はシニアに対して特段の頑張りや成果を期待していない、ということです。それを人事制度によって社員にハッキリと示してしまっているのです。 言葉はきついですが、多くの日本企業における定年後再雇用の仕組みは、単なる社会福祉政策の一環に過ぎません。これでは、いくらシニア本人に知識・能力・経験があっても、モチベーション高く働くことは困難でしょう。日本企業は定年後再雇用によって残念なシニアを量産していると言っても過言ではありません。 これまでの日本経済を支えてきたシニアの方々に本来の実力をいかんなく発揮してもらい、尊敬されるシニアとしての活躍を促す定年延長を実現することが、日本企業にとっての最重要課題の一つです。 石黒 太郎 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング事業本部 組織人事戦略部長・プリンシパル
石黒 太郎